企業統治に詳しい八田進二・青山学院大学名誉教授(会計監査論)は「退任後の報酬であっても費用の計上は発生主義で、金額等が決まっていれば当該年に記載する必要があります」と指摘する。虚偽記載以外にも数々の疑惑が浮上し、特捜部は特別背任や業務上横領の容疑での立件も視野に入れていると見られる。会社に高級住宅を購入させたり、家族旅行の費用や姉への報酬を払わせたりしたとされていることについて八田氏は、

「例えば住宅を独占的に使用しているなら、家賃相当額は給与と見なすべきです。当然課税対象となり、一切家賃を支払っていないなら脱税の罪になる。姉への報酬なども事業目的とは無縁で経費に認められるわけもなく、給与と考えるべきです」

 今後、新旧対決はどう進むのか。前出の若狭弁護士が話す。

「弁護側は『日産がゴーン前会長を追い出すために不正ありきで司法取引に応じ、信用性が低い内部調査が行われた』と示す資料をそろえる。検察側はゴーン容疑者の個人犯罪をどうにか立件し、内部調査の信用性が高いことを示してくるでしょう」

 有価証券報告書の虚偽記載は、10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金またはその両方が科される。「特別背任の罪なども重なると、上限の10年もありうる」(若狭弁護士)。保釈金も高額になりそうだ。

「資産がどのくらいあるかわからないが、海外逃亡を防ぐため外国人は高くなる。5億円から10億円程度になるのでは」(同)

 13年前、特捜部長に就任した若き大鶴弁護士はこう話した。

「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反をすればもうかるとわかっていても法律を順守している企業の人たちが憤慨するような事案を困難を排して摘発したい」

 大鶴氏の目に今、ゴーン容疑者の姿はどう映るのか。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2018年12月10日号