二人は8~9月に開かれた第75回ベネチア国際映画祭にも参加。現地でスタンディングオベーションの喝采を浴び感激したという(撮影/写真部・大野洋介)
二人は8~9月に開かれた第75回ベネチア国際映画祭にも参加。現地でスタンディングオベーションの喝采を浴び感激したという(撮影/写真部・大野洋介)
蒼井優(あおい・ゆう)/1985年、福岡県生まれ。2001年に「リリイ・シュシュのすべて」のヒロイン役で映画デビュー。「彼女がその名を知らない鳥たち」(17年)、「ペンギン・ハイウェイ」(18年8月17日公開、声の出演)ほか出演多数(撮影/写真部・大野洋介)
蒼井優(あおい・ゆう)/1985年、福岡県生まれ。2001年に「リリイ・シュシュのすべて」のヒロイン役で映画デビュー。「彼女がその名を知らない鳥たち」(17年)、「ペンギン・ハイウェイ」(18年8月17日公開、声の出演)ほか出演多数(撮影/写真部・大野洋介)
塚本晋也(つかもと・しんや)/1960年、東京都生まれ。89年、「鉄男」で劇場映画デビュー。大岡昇平原作「野火」(2014年)では毎日映画コンクール 男優主演賞も受賞し、高い評価を得た。ベネチア国際映画祭の常連でもある(撮影/写真部・大野洋介)
塚本晋也(つかもと・しんや)/1960年、東京都生まれ。89年、「鉄男」で劇場映画デビュー。大岡昇平原作「野火」(2014年)では毎日映画コンクール 男優主演賞も受賞し、高い評価を得た。ベネチア国際映画祭の常連でもある(撮影/写真部・大野洋介)

 映画「野火」の塚本晋也監督が初めて時代劇に挑戦した。長年、監督のファンだという俳優・蒼井優とのタッグも実現。いま、なぜ、時代劇なのか。二人はそこに、何を思ったのか。

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*  *  *

──蒼井さんは15歳のときから塚本作品を見ていたそうですね。

蒼井優:はい。「双生児」(1999年)を、たしかVHSのビデオで見ました。

塚本晋也:寝床で、布団をかぶって見ていたって言ってたよね。

蒼井:そうです。小さいプレーヤーを布団の中に持ち込んで、母親がくるとパッと布団をかぶって。見つかると「外で遊びなさい」って怒られちゃうので。

塚本:そういうことですか。よかった。お母さんにいけないものを見ていると思われていたのかなと(笑)。

蒼井:今回、塚本さんから出演のお話をいただけるとは想像もしていなくて「ホント?」って。塚本さんが正気に戻る前に「やります!」って返事をしました。

塚本:ありがたいです。僕は脚本を書き終わって自然に蒼井さんの映像が浮かんできてしまったので、いちかばちかお願いしたんです。快諾のお返事をいただいて、「しめしめ」と。

蒼井:お互いに「しめしめ」でしたね(笑)。

──舞台は250年にわたって平和が続いてきた江戸時代末期。農村に身を置き、人を斬ったことのない浪人・杢之進(もくのしん=池松壮亮)と村の娘ゆう(蒼井優)の前に、剣の達人・澤村(塚本晋也)が現れる、という展開です。

塚本:時代劇は20年以上前から作りたくて、「1本の刀を、過剰に見つめる浪人」という設定だけはずっとあったんです。さらに前作「野火」から4年たって、「野火」を作った理由である「世の中がどんどん戦争に近づいていっているような恐怖」が、一向に薄れることがなかった。自分のなかで不安のような、叫びのような感覚が生まれて、それがその浪人像に重なった。いまの時代に、何か叫びをあげたい、と思って作りました。

蒼井:塚本さんのプロットや台本は、いままで目にしたことがないものでした。普段は台本を読んで、その人物がくっきり立ち上がるまで読み込むんですけど、今回は読みながら、ゆうという一人の人物にポコポコといろんなキャラクターが出てきて。これを1個に集約するのではなく、バラバラのままやってみたいな、と。それによって戦いの血が流れる環境においての「女」というものを、感じていただけたり、想像していただけたりするかなと思いました。

──見たことがない台本とは、どういう感じなのでしょう?

蒼井:散文的というのかな、監督の“感覚”が書かれている感じです。それに製本されてないんです。ただの紙が、ホチキスで留めてあって。

塚本:すいません……。

蒼井:撮影中は血糊(ちのり)も泥もベタベタついているし。シーンの途中で「ここの場面なんですけど」とか持ってきてくださっても、文字が読めない(笑)。演技指導は擬音です。ピュピュピュー、とか。

塚本:具体性がないんです。

蒼井:「ここジトーン、ドーン! ジトーン、ドーン!で」とか。音楽的かと思うんですけど。

塚本:初めて言われました。

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