蒼井:でも、ものすごくそれが「あ……」と伝わるんです。新鮮で、自分もなんだか、実験をしたくなった。もし自分が映画学校に真面目に通っていたら、こういう経験がいっぱいできたんだろうな、という感じです。ずっとみんなで実験している、みたいな感じでした。

──池松壮亮さんとの共演はいかがでしたか?

蒼井:彼が中学生のころから知ってるし、同じ福岡出身なのでなんとなくわかるんですが、2人ともそんなに素直な人間じゃないんです。照れくささが先に立ったりするタイプ。でもその2人が撮影の待ち時間のあいだ、ボーッと山の中で空を見上げて「塚本組、すごいねえ」「しあわせだねえ」って言い合っていた。それほどしあわせな現場でした。

塚本:今回の撮影では演技以外のところでも本当に助けていただいちゃって。「雨上がりだから、草がもうちょっと濡れてたほうがいいんだよなあ」なんて思わずつぶやくと、蒼井さんが本番前に自分で、草に水をかけてくれたり(笑)。

蒼井:塚本組はそういう雰囲気なんです。そのときできる人が、できることをやる。少しでも「現場の役に立とう」って。

蒼井:ゆうは決して簡単な役ではなかったです。でもそれが難しくもあり、楽しかった。

塚本:ゆうは多くの「普通の人」を代弁してるんですよね。自分の好きな人──池松くん演じる杢之進や弟が戦争に行くのはいやだけど、近所に怖そうな人がきたら、やっつけてほしいと願う。

蒼井:で、杢之進がへなちょこなときに澤村が現れると「ステキ!」って思ったりする。ある意味、愚かしいともいえるけど、でも人間って常に矛盾するものじゃないですか。

塚本:それが人間的ですよね。

蒼井:できあがった作品を見て、人間の色気と愚かさのバランスをすごく感じました。

──ゆうの心理は、現代の排他主義の空気にも通じるのでは。

塚本:そう。で、そうやって動いているうちに、知らぬ間に自分自身に刃が突きつけられているんですよね。見る方には、ゆうに共感しつつ、そこに気づいていただければと思っています。

蒼井:伺ってみたいと思っていたのですが、塚本監督ってお芝居をしてるとき、とんでもない目をしてることありますよね。私がやったことのないような顔をされる。例えば、お芝居をするときにブレーキをかけるところってありますか?

塚本:うわあ、難しい質問! むしろ、僕が聞きたいですよ。

蒼井:これ以上はしない、という「品」の線引きというか、すごくわかりやすく言うと、お芝居をやっているときに「よだれも鼻水も全部出す!」というタイプの役者さんと「そこまではしない、それより手前で止まったほうがいい」と判断をする方といると思うんです。塚本さんはその「出し方」をどこで止めるのかな?と。

塚本:難しいですねえ。僕は「野火」で鼻水もよだれも全部出すようなことしてますからねえ(笑)。

蒼井:映画にとって「それが大事」と思ってやる人もいるし、「ここまでオレ、やってる!」という感触がほしくてやる人もいるな、と思うんです。

塚本:蒼井さんはどうですか?

蒼井:私は……現場の空気を読む、かな(笑)。自分でもどこが止め場所なのか、正解はわからないんです。

塚本:でも「鼻水もよだれも必要」とされたとき、蒼井さんは絶対に反応できる。その集中力、素晴らしい演技を間近で目撃しましたから。

蒼井:うれしいです。またご一緒させてください。

塚本:今度は台本、製本しておくようにします。

(構成/ライター・中村千晶)

※AERA 2018年11月12日号