「プリンセスに耳を傾けてもらったことに、力をもらいました」

 登壇した女性たちは、紀子さまとの記念撮影の後、満面の笑みを浮かべた。

 会場を移動する時、紀子さまはすたすたと、とても早足だ。階段も軽やかにのぼり下りする。長男の悠仁さま(12)と時には小屋にも泊まる登山を繰り返しているから、そもそも健脚なのだ。ごった返した中へも自然に歩み入る。護衛を担う皇宮警察は、思わず駆け足になる。日本ではまず見られない光景だ。

 途中で声をかける人がいると必ず足を止め、正面から顔を見て話を聴く。ホテルに戻るのを遅らせて、説明を聞いたこともあった。資料をそっくりもらっていくのは「結核予防婦人会の皆様にもお見せしたいから」だ。

 午前と日中が空いていた26日には、午前と午後、二つのシンポジウムを聴講した。

 一番前の席で耳を傾け、メモを取る。終了後は講演者全員と握手をし、言葉をかわすのは毎度のことだ。

「私たち日本人の参加者はもちろんですが、私たちにもまして、海外の参加者が妃殿下にとても元気をいただいている」

 こう話すのは、二つのセッションで紀子さまが聴講した、世界保健機関(WHO)医官の錦織信幸さん(46)だ。

 WHOスタッフのモニカ・ディアスさん(36)も言う。

「ふつうの来賓は、来たら話をして帰って終わり。あんなに丁寧に全部聴いて一人ひとりに握手をし声をかけてくれて、みんな感銘を受け、喜んでいる。プリンセスのおかげで今年の大会は皆、高揚しています」

 だが、これが、紀子さまの自然体だ。

 結核予防会の関連団体であり全国各地で結核予防の担い手となって活動してきた「結核予防婦人会」が、都内で開く恒例の泊まりがけの「中央講習会」では、紀子さまは毎年、その全行程に参加し受講する。

 最新の話題を専門家が講義する際は、一番後ろの席でメモを取りつつ耳を傾ける。班ごとに分かれ、ゲーム形式で結核予防の具体策を学ぶ時間にはすべての班を回ってゲームに加わり、女性たちの話を聴いていく。

 2010年からは複数回、そんな婦人会のメンバーや女子大生ら計約千人に結核予防に関する意識調査を実施し、心理学的な手法で分析して博士論文にまとめた。受理したお茶の水女子大学は13年、紀子さまに博士号(人文科学)を授与した。

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