「ニライカナイ─命の分水嶺」は11月2日(金)から4日(日)まで、座・高円寺1(東京)で上演。問い合わせは劇団態変officeイマージュ(写真:bozzo)
「ニライカナイ─命の分水嶺」は11月2日(金)から4日(日)まで、座・高円寺1(東京)で上演。問い合わせは劇団態変officeイマージュ(写真:bozzo)
キム・マンリ/1953年、大阪府生まれ。3歳で小児まひをわずらい、首から下がほぼ動かない重度身体障害者となる。成長期の10年を施設で過ごし、そこで「人間を見る目が形成された」(撮影/MIKIKO)
キム・マンリ/1953年、大阪府生まれ。3歳で小児まひをわずらい、首から下がほぼ動かない重度身体障害者となる。成長期の10年を施設で過ごし、そこで「人間を見る目が形成された」(撮影/MIKIKO)

「劇団態変」は、身体の変形など社会的には障害とされる特徴を、無二の個性として芸術に昇華する。35年にわたって劇団を率いる芸術監督の金滿里(キム・マンリ)さんが追求するのは、凝視の先にある「未踏の美」だ。

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 金滿里さん(64)は劇団態変(たいへん・大阪市)の芸術監督で作・演出も演者も務める。11月に公演する「ニライカナイ─命の分水嶺」は、2016年に障害者施設で入所者19人が殺害された相模原事件がきっかけで生まれたという。

 金さんは、理不尽に命を奪われた19人の恐怖を想像し、「子どものころの施設体験の暗闇と重なって心がうずいた」と話す。

 施設内で「アボタカ」という通称で呼ばれていた友。本名は知らない。彼女の動かない足は、道具のように扱われていた。金さんの幼い心に刻まれた原風景は、相模原事件を経て、「その足がいま、旅をしたがっている」という思いにつながった。

 金さんが子どものころは、健常者を目指すことが正しいと信じる社会の風潮が強かった。周囲の大人たちからは「治りたいと思いなさい」と言われ続けた。一方で、子ども同士は友達として互いの個性を見ていた。「大人の言うことが正しいわけではないと気づく感性を皆が持っていました」。障害自体はなくせない。金さんは「身に着いている違いと向き合い、ありのままの自分で生きる」と決めた。

 劇団態変を旗揚げしたのは、29歳の時だ。演者は皆、身体に重度の障害がある。レオタード姿で、舞台を這(は)ったり、転がったり、身一つで表現する。

「社会の中で障害は目を伏せたくなる異物とされてきました。もしその異物自体を大事にしようと思ったら、あるがままを見つめ、ぶざまな部分も表現として出さなければ。すると身体の在り方が変わってくる。生き生きとするんです」(金さん)

 演出をしていると、命がごろっと目の前に現れることがある。命に形はない。だが、確かに存在する。そこに未踏の美を感じる。

「命の力ってね、何ができるとか、いくら儲(もう)けられるとかいうことじゃない。命が喜ぶのは、なりふり構わないもの」と話す。

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