自分自身、施設にいた頃は感情を失い、何にも反応しない暗い子どもだった。その後、施設を出て障害者解放運動を唱えたが、障害者という一つの役割を演じているような気がしていたのだという。劇団を主宰してからの人生のほうが「がむしゃらに生きている実感がある」。

 東京公演初日に65歳の誕生日を迎える。いまならアボタカの足に向き合える気がするという。細い棒きれのように見えた友の足。人間扱いされていないようで、力の弱い者にかぶさる人間の心理を考えた。差別される友の足を「怖い」と思っていた自分の気持ちにようやく向き合えた。

「自分の中にも弱さや悪の部分がある。だからこそ、普段から本音を見つめていかなければ」と思う。見ないふりをしていると、気づかぬうちに、その暗部に引きずられてしまう。一人の中に善も悪も存在する。今回の舞台は、半世紀かかって金さんがたどり着いた一つの境地だ。

 金さんにとって芸術とは「命を示すこと」。アートで社会に切り込むのが自らの役割だと感じている。近ごろは「社会そのものが当時の施設化しているように見える」。

 今こそ、違いを面白いと思える価値観に変えたい。あなたも生きていい──。生命のエネルギーを舞台で解き放つ。(ライター・桝郷春美)

※AERA 2018年11月5日号