子どもに最善の環境を用意してあげたいと、幼稚園と保育園を10以上見学した。「共働きだから」子どもの教育が不十分だとは言われたくない。勉強に力を入れる幼稚園を選んだ。公立小学校に進み、習い事は英語、水泳、サッカー、知育教室。小学校で必修になるプログラミングも体験教室が楽しかったようで、通わせようか悩んでいる。

「SNSでいろんなことが見えて、つい振り回されてしまいそうになる。自分の考えを持って、踏みとどまることも必要だなとわかっているんですけどね」

 私たちは今、時代の大きな転換期にいる。「AI(人工知能)に今ある仕事の半分は奪われる」とも言われる。そんな時代に未来を生き抜いていくため、付け焼き刃的な学力ではなく、自分で人生を切り開く力をつけさせたいと願う親も少なくない。

 だが現実は、あふれる情報に翻弄され、SNSでたくさんの「いいね」を伴った「正解」に惑わされる。AIは商品やサービスを個人に合わせて選んで「最大公約数」を提案。それらから逃れるのはますます難しくなり、「こうすべき」「みんなそうだから」に縛られて、自分らしい、子どもに合った子育てから遠ざかってしまう人も少なくない。

 渋谷区に住むライター・エディターの女性(42)は、6歳の一人娘には、自分で好きなことを見つけてとことん探求していく中で生き抜く力をつけさせたいと思っている。

「そのためには、まわりと違っていてなんぼ、のはずなのに、みんなと一緒のことをしていないと不安になってしまいます」

 土日に仕事が入ることもあり、娘には習い事をさせていないが、気がついたら保育園のクラスメートの多くが公文やスイミングなど二つ、三つ通っていた。通わせていないのは親の怠慢かも、と落ち込んだ。

 乳幼児教育や子育て支援が専門の大豆生田啓友(おおまめうだひろとも)・玉川大学教育学部教授は言う。

「子育てをしているママやパパたちは、たくさんの情報や誤解を招きやすい極端な情報に過剰に焦らされています。『よい親でなければならない』という圧力の結果、マニュアルのような子育てで子どもを見なくなってしまうことを心配しています」

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