夏の甲子園で一躍スターとなった金足農業の吉田輝星投手。高校最後の試合を終えたが、進路については「快投」乱麻とはいかないようだ。
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福井国体・高校野球硬式の部で常葉大菊川(静岡)に勝利した金足農業の右腕・吉田輝星。チームは1位となり、自己最速となる152キロも記録したが、表情を緩めたのは一瞬だった。
「(甲子園と比べたら)疲れが抜けきっていて、思い切って腕が振れた。最後の試合で(自己最速を)出せて良かった。甲子園出場までは勝たなきゃいけないとか、きつい練習に耐えなきゃいけないという思いばかりだった。高校野球トータルではつらいことの方が多かったんですけど、甲子園で初めて野球の楽しさを知って、心から楽しめた。今は余韻に浸りたいです」
質問は進路の話題に集中し、吉田はけむに巻き続けた。
「今は何も考えていません。両親とこれから話し合って、監督や周囲の方々に客観的な意見を聞きながら……」
「迷っているのか」という問いには、即座に否定した。
「迷って決められることではないので時間をかけて……後悔のない決断をしたいと思います」
青森・八戸学院大学への進学か、それともプロか。原稿執筆の時点(10月4日)で吉田は進路を表明していない。プロ志望届の提出期限は11日で、いずれを選ぶにせよ、早晩、決意会見が開かれるのだろう。
夏が始まるまで、吉田の進路は大学野球で固まり、一部のプロスカウトにも伝えていた。
八戸学院大学の正村公弘監督は、金足農業の嶋崎久美元監督に吉田を紹介され、才能にほれ込み、八戸から秋田市まで「数十回は通った」(本人談)というほど、熱心に指導した。
「今の吉田があるのは正村監督の指導があるから。ご恩をほごにするわけにはいきません」
投手経験のない金足農業の中泉一豊監督は常々、そう話していた。吉田も恩を口にする。
「正村監督の指導が僕には大きかった。力感のないフォームになって、スライダーは投げ方から教えていただいて、曲がるようになった。ご恩はすごく感じています」