しかし、秋田大会を勝ち上がり、甲子園で活躍したことで、世間とスカウトの評価は一変。吉田の進路が注目を集めれば集めるほど、吉田と学校関係者は口をつぐんでいった。

 吉田は「将来の夢はプロ野球選手」と語っており、甲子園の直後には好きな球団は「巨人」と明かし、周囲を慌てさせた。

 もし大学進学で固まっているのであれば、騒動をいち早く収束させるためにも、そう表明しているはずだ。表明が遅れているということは、吉田の中に迷いがあるか、大学進学を勧める周囲の説得に時間を要しているかのどちらかだろう。

 国体が行われた福井には吉田の両親の姿があった。2人に話を聞いていて、思い出したのは大谷翔平の両親だ。6年前、大谷は高校から直接メジャーリーグに挑戦すると表明。その決断は翻意することになったが、騒動の渦中にあった大谷の両親を筆者は取材した。息子の夢を応援したい一方、お世話になった人々に迷惑をかけてしまうという両親の葛藤が、今回と重なる。吉田の父・正樹さんは言う。

「親としては普通の高校生活を取り戻してほしい。大学進学とプロ。どうして2択なんでしょう。このまま就職してくれたら、すべて安泰なんですけど……」

 いずれの決断を下すにせよ、吉田がやることにかわりはない。

「ウェートトレーニングと走り込みをして、腹筋、体幹トレーニングをして……体重を維持しながら、しっかり筋肉をつけていく。その上で身体のキレを求めて、ボールにしっかり力を伝えられるように全面的に底上げしていきたい」(吉田)

 後悔なき決断を──。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

AERA 2018年10月15日号より抜粋