井上晴美(いのうえ・はるみ)/俳優。熊本県生まれ。地震後、大阪などに避難していたが、現在は再び熊本県内に戻り復興支援にも取り組んでいる(写真:本人提供)
井上晴美(いのうえ・はるみ)/俳優。熊本県生まれ。地震後、大阪などに避難していたが、現在は再び熊本県内に戻り復興支援にも取り組んでいる(写真:本人提供)
隣の家屋や土塀が倒壊。車に退避していたが路地に閉じ込められた。「自転車とか、燃料のいらない交通手段の必要性を痛感しました」(写真:本人提供)
隣の家屋や土塀が倒壊。車に退避していたが路地に閉じ込められた。「自転車とか、燃料のいらない交通手段の必要性を痛感しました」(写真:本人提供)

 地震大国の日本。実際に被害に遭った場合、どんなトラブルが起こり、そして何が必要になるのか。本地震での被災経験のある俳優・井上晴美さんに聞いた。

【写真】隣の家屋や土塀が倒壊。車に退避していたが路地に閉じ込められた

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 2016年4月14日の熊本地震で被災した俳優の井上晴美さん(43)は、当時、出身地である熊本県内でも被害の大きかった西原村にいた。

 経験したことのない大きな揺れだった。キッチンにいた井上さんは、とっさに手近にあった「ママバッグ」をつかんだが、冷蔵庫や食器棚などありとあらゆるものが倒れてきて、一瞬で身動きが取れない状態に。

 夫の行動は冷静だった。井上さんの夫はメキシコ生まれのカナダ人。子どものころメキシコ大地震(1985年)を経験したという。ノートパソコンを手に部屋を飛び出し、子どもたち(当時8歳、6歳、4歳の3人)を屋外に避難させたのち、井上さんを救出してくれた。

「車で30分ほど走ると、街の様子がまったく普通ですごく不思議でした。品物は少ないけれどお店は開いていたし、ATMも使えたんです」

 持ち出したママバッグのおかげで、財布に多少の現金、キャッシュカード、家族の保険証は無事だった。スマホも充電ケーブルもあった。銀行通帳や有価証券などの「紙の書類」は倒壊した家の中だったが、夫のPCには金融関係のIDやパスワードの情報が保存されていた。

 震災直後にはボランティアに扮した窃盗団も横行した。被災地支援を掲げるトラックでやってきて、作業着姿の人ががれきをいじっていても、誰も気にとめない。井上さんの家は退避地域に指定されてしまったため、家を監視することもできなかった。

「盗まれる前に少しでも持ち出せたらと、夫ががれきの中に入ったんです。体にロープをくくりつけて子どもの自転車用ヘルメットを頭にのっけて……。まるでコントみたいないでたちでしたけど、私たちはいたって真剣。家の奥まではとても入れなかったけど、それでも多少の現金や貴重品は取り出せました」

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