岡田:イヤイヤ(笑)。でも、こんなに飛ばすんだ、とは思いましたけど。あの血は予想以上に付いたんですよね?

西島:目まで真っ赤になって。すごい迫力の現場だったなと。僕が演じた采女は冷静な人ですが、そこは全員斬りに行くという。「椿三十郎」のオマージュですね。

岡田:大作さんは「椿三十郎」で初めて血しぶきを考えた人たちについていたキャメラマン。今はCGでやりますが、それを生でやる。しかも雨の中の一発勝負。だいたい殺陣を一発でやるというのもチャレンジングですよね(笑)。でも、大作さんは全神経を集中して撮っている感じはありましたね。闘っていた。その大作さんの背中にみんながついていく。あのクライマックスの殺陣は、僕は最悪ミスしたらとにかく斬っていこうって決めてたんです。みんな合わせてくれるだろうなと。そんな状態で現場は進んでいました。

――本作で、レジェンドである木村監督から学んだことは2人ともたくさんあったと話す。

岡田 大作さんは場所を作ることが映画の基本だとおっしゃいます。場づくりは大作さんのすごさでもあります。今回オールロケでしたが、竹の数が足りないと感じたら植えて足していました。大作さんはそこにあるものに自分の美意識や美的センスを足したり、ここではこの画を撮りたいから必要ないものは除いて撮影後に戻したり。あるシーンを撮るのに電柱があったんですよ。それを絶対に役者に見せるなと電柱を移して撮影後に戻したこともありました。

西島:美しい時代劇というのは、精神の美しさもあるでしょう。大作さんが撮影しているのは物理的に撮るということではなく、本物を使った時のある気配だったり、カメラに映らない空気だったり役者の心の動きだったり、あるいは撮影現場全体で感じている一回で撮るという緊迫感だったり。そういう大きなものを捉えようとしている方だと思います。人の持つ生きることに対する姿勢、気持ちのような、映らないものの美しさも大作さんは撮ろうとしていたのかなと思います。

岡田:大作さんは画一枚一枚がただ美しいのではなくて、詩が乗るような行間の深さといったこともよく言われます。心の美しさだったり、殺陣の美しさだったり。映画は人として完璧を目指しながらも弱いところもある人間を描いている。もちろん愛も。美しい時代劇を撮るというのは一つのワードですが、そこにたくさんのこだわりを感じました。

西島:全部ロケで撮るとか、天気もこれぞというところまで待つ。待って待って本番は一回勝負。今回、他の時代劇を撮るのとは全然違うことがたくさんあった。新鮮だったし、自分の大切な経験として血肉にしたいと思いました。

岡田:大作さんはすごいですよ。79歳ですけどおちゃめですし。絶対画作り以外のことでは怒らない。怒鳴り散らせるエネルギーがあることも今の時代、本当にすごいと思う。たくさんの人に大作さんに触れてもらいたいですね。

(文中一部敬称略)(構成/ライター・坂口さゆり)

※AERA 2018年10 月8日号