「防災が生活の一部」になった2人が、それでも今回の台風21号で新たな危険として認識したのが、高潮・高波被害だった。関西空港の滑走路が冠水する映像に衝撃を覚えたという。

「東日本大震災や西日本豪雨災害で印象が強い津波や河川の氾濫は警戒するけど、高潮という意識はなかった」と島元さん。大森さんも「高潮は全くの想定外。台風で海がこんなふうになるのかと驚いた」と話す。

 強い地震があれば誰もが津波を心配する。大阪や東京などの都市型災害では、河川の氾濫や集中豪雨などによる冠水、地下街の浸水への危機意識は広まりつつある。しかし、台風で潮位が盛り上がる高潮や、強風で波が押し寄せる高波について警戒する人は多くない。関西空港の滑走路の冠水や、大阪湾岸でのコンテナの流出、防潮門扉の破壊や沿岸住宅地への浸水など、大阪や神戸で台風21号がもたらした一連の高潮・高波被害は、専門家の間では広く認知されていても、一般的にはあまり関心が向けられない盲点だった。

 国土技術政策総合研究所の津波・高潮災害研究官、谷兼太郎さん(42)によると、高潮は、台風の気圧が低いほど海面が盛り上がる。1ヘクトパスカル(hPa)下がるごとに1センチ上昇するイメージだ。確定値は未定だが、台風21号の上陸時の気圧は940hPa前後だとみられており、この場合、あくまでも単純計算で73センチほどの上昇を意味する。

 高潮は強風による吹き寄せによっても起こる。台風の移動速度や潮の干満の影響も受けるため、実際の潮位は様々な要素が絡まって変化するが、今年最強の勢力と言われた台風21号となれば、高潮被害は想定されて当然のはずだった。各地で高潮・高波被害が出た大阪湾では、気象庁が大阪市で最大潮位329センチを観測しており、これまでの最高潮位293センチ(1961年の第2室戸台風)を更新したほどだ。

 台風による高潮・高波被害は、大阪湾同様に南側に湾口が開き、面積も近い東京湾でも起きる危険性は十分にある。

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