政府の中央防災会議の専門調査会で報告された東京湾の高潮被害予測によれば、59年の伊勢湾台風(940hPa)級が直撃し、防潮壁などの施設が正常に機能したと仮定した場合、湾沿岸で約88平方キロメートルが最大1メートル未満の深さで浸水する。今も防潮壁の整備が続いている場所もあり、避難率0%だと最大40人の死者が出るとした。これが最も被害が小さいシナリオAだ。

 一方、温暖化で海面水位が0・6メートル上昇した状態で、室戸台風(34年、911hPa)級が直撃。防潮壁が破壊され、水門も閉鎖できない最悪のシナリオFでは、浸水面積は280平方キロメートルに及び、避難率0%で最大7600人が死亡すると想定した。

 谷研究官によれば、現状ではシナリオAがより現実的だというが、ただ、「自然現象なので過去最大を上回る台風もありえる。地震と異なり、台風は予測可能な自然現象なので、事前に高潮・高波のリスクを理解し、対策を考えておくことが重要だ」と強調。台風21号でクローズアップされた高潮・高波への防災意識が、東京でも浸透することを期待する。

 災害大国・日本。発生する自然災害の規模も威力も場所も頻度も全てが経験したことがない未知の領域に入りつつある昨今、いつどこで何が起きてもおかしくない。しかし問題は、都市に暮らす人たちが災害リスクをあまり意識していない点だと、大阪市立大学都市防災教育研究センター所長の三田村宗樹さん(60)は言う。

「大阪には海抜ゼロメートル地帯がたくさんある。東京や名古屋にも同様のエリアはある。いま日本はいつどこで地震が起きてもおかしくない。しかし、いざ災害が起きた時にどうすればいいか意識している人は少ない」

 都市型災害は充実したインフラが逆に引き起こしていると、三田村さんは指摘する。

「日本の都市は電気も水道も鉄道もインフラは整っているが、いったん停電が起きるとたちまち交通網がマヒし、混乱が広がる。都市の発達とともにリスクも様変わりして現れる。災害がいつ起きても対応できるよう、対策を取っておく必要がある」

(AERA編集部・山本大輔、野村昌二、高橋有紀)

AERA 2018年9月17日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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