その背景には、ある「成功体験」があるからではないかと福島氏は推測する。16年1月の衆院予算委で、民主党(同)の緒方林太郎元衆院議員は、拉致被害者の兄、蓮池透氏の著書を引き合いに、「拉致を使ってのし上がったのか」と迫った。安倍首相は「私が言っていることが真実だとバッジをかけて言う。違っていたら私は国会議員を辞める」と言い切った。以後、「拉致の政治利用」を野党が追及することはなかった。

「森友問題もそれで乗り切れると思ったのでしょう。私は質問の時点で、公にされていなかった『安倍首相ガンバレ』と園児に連呼させる映像などを入手していたので、この問題は長期化すると見ていました。総理の進退発言を聞いて、深刻な政治問題になると確信しました」(福島氏)

 安倍首相は、野党との質疑のなかで、感情的になったり、事実誤認の答弁をしたりすることが目につく。典型的なのは、16年5月の衆院予算委での発言だろう。保育士給与の引き上げを「委員会が決めることと言って逃げている」と追及した民進党(同)の山尾志桜里衆院議員に対して、安倍首相は「議会の運営について少し勉強して頂いたほうがいい。議会については、私は『立法府の長』。立法府と行政府は別の権威。(国会での)議論の順番について私がどうこう言うことはない」と反論。首相は行政府の長だ。結局、この発言は「言い間違い」として議事録から削除され、公的にはなかったことになった。

「間違い」を認めないケースもある。いわゆる「共謀罪」の対象になる組織について、首相は「そもそも、犯罪を犯すことを目的としている集団」とした後、「(オウム真理教は)当初は宗教法人として認められた団体でありましたが、犯罪集団に一変したものである以上それは対象となる」へと答弁が揺れていた。17年4月の衆院法務委で山尾氏が「どちらが正しいんですか」と確認すると、安倍首相は「『そもそも』という意味には、辞書で念のために調べてみたわけでありますが、『基本的に』という意味もある」と答弁。「山尾委員はもしかしたらそれをご存じなかったかもしれませんが」とも付け加えた。毎日新聞などが、どの辞書にも「基本的に」との表記はないと報じると、後に、政府は「そもそも」の用法について『大辞林』に「(物事の)どだい」という意味があり、「どだい」には「基本」の意味があると閣議決定した。安倍首相の発言との整合性を取るために、言葉の「意味」も変えられた。

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