『ちびまる子ちゃん』は、昭和の小学生の日常を描いているから、多くの人が懐かしさを覚えるのだろう。しかし、それだけで国民的な人気を得たわけではないはずだ。クールなナレーション、父親を「父ヒロシ」と呼び捨てにする客観性や、「明るく元気なだけではない子ども」を描いたビターなユーモア。そこに流れているのはありふれた日常を俯瞰して面白がる、さくらさんの時代や世代を超えた独特で普遍的な視点だ。

「さくらさんは日常に起こるどんな出来事でも、笑いにできちゃうんです。シビアな事件も、さくらさんが話すとゆるく聴き入ってしまう。困ったことも、それにつられて起こる自分の感情までも、すごく客観的な見方をしてるんです。まるちゃんのあきらめまじりの冷めた笑いも絶妙ですよね。それに、間のとり方がうまいんですよ。声のトーンを変えたり、しぐさをつけたりして、もう聴きほれちゃいます」

 さくらさんは、人前にはあまり出ないで、祖父江さんや気のおけない女友達と集まって、おいしいものを食べたり、おしゃべりしたりするのが好きだった。

 しばらく仕事をセーブして、家族との時間を優先させたいといわれ、祖父江さんは10年近く会っていなかった。

「お子さんも成長して、そろそろまた一緒に仕事ができるぞって思っていたんです。さくらさんの書く物語って本当の本当に面白いんですよ。こんどは小説を書きたいって言ってたのにね」

 自分の似顔絵を「三つ編みのおさげ」にしていたさくらさん。ファンの前に出る時は自画像にあわせて帽子と三つ編みをつけていた。

「気にしなくていいんじゃない?と言っても、『ファンの人のイメージがあるからさ』って。そういうところは律義な人でした」

(ライター・矢内裕子)

※AERA 2018年9月10日号