「マージャンをしているときは会話しなくていいでしょう。それが救われるんです」

 と田辺さん。

身の上話をするとどうしても亡き夫のことを思い出す。しかしマージャンをしている間は、家庭の話をすることもないので、気持ちが楽なのだという。

 いまはと一緒に暮らす。家にいると、猫と話をするかテレビを見るくらいしか、やることがない。寂しいので店には週に2、3回は訪れる。頭を働かせて、笑って、悔しがって。朝から夕方まで、ランチを挟んでたっぷり8時間半。ストレスもたまらないとほほ笑む。

 マージャンを通して友だちもできた。会社役員、仕事をリタイアした人、商売をしている人……。今まで知らなかった世界の人たちと出会え、人生も豊かになったという。

 取材した日は米寿(88歳)の誕生日前日。夕方、マージャン仲間が横浜で食事会を開いてくれるのだと嬉しそうに話した。

「100歳まで生きてみたいわ」

(文中敬称略)(編集部・野村昌二)

AERA 2018年9月3日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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