マージャンに興じる田辺悦子さん(左奥)。頭も使うので、夫が亡くなった孤独を忘れられるだけでなく、ボケの防止にもなるという(撮影/今村拓馬)
マージャンに興じる田辺悦子さん(左奥)。頭も使うので、夫が亡くなった孤独を忘れられるだけでなく、ボケの防止にもなるという(撮影/今村拓馬)

 長寿社会となった今、老後の孤独との向き合い方も人生の大きな課題の一つだ。米寿を迎えたある女性は、その方法をマージャンの中に見出した。

「ポン」「チー」

 とある平日の朝。東京都新宿区の雑居ビルの雀荘「ガラパゴス」で、楽しそうな声が聞こえる。

「マージャンに没頭する間は、孤独を忘れられますね」

 ウフフと笑って話すのは、田辺悦子さん(88)。

 12年前に夫をがんで亡くした。享年80。日本舞踊の師匠でもある田辺さんは47歳の時、5歳年上の夫と結婚。小学校の教師だった夫は優しかった。そんな夫を亡くし、しゃべる気力をなくすほど人生でもっとも落ち込んだ。自宅に引きこもり、遊ぼうという気持ちも起こらず若い時から楽しんでいたマージャンにも行かなくなった。

 しかし三回忌を機に、かつてのマージャン仲間に誘われ始めたのが、この「健康麻将(マージャン)」だった。

お金を賭けない」「たばこは吸わない」「お酒を飲まない」の三つの「ない」をモットーに掲げて35年ほど前に生まれ、1988年には日本健康麻将協会も発足した。今では認知症予防につながるとも言われ、高齢者を中心に人気だ。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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