●ごまかしがきかない

 大阪桐蔭に集中打を浴びて試合展開が劣勢になる中、メガホンを両手に木村蒼くん(7)が声を振り絞って応援を促すと、周りもつられるように絶叫、最後の最後まで盛り上がった。同校の宮腰明教諭(47)は、目を真っ赤にしながらこう話した。

「大人になると物事の先行きが見えてきて『努力が必ずしも報われるわけじゃない』なんてセリフを吐いてしまいがちですが、彼らはどの試合でも最後の一球まで諦めずに全力でプレーしてここまでたどり着いた。やったことにしてサボろうとするのが人だけど、自然を相手にするとごまかしがきかない。肥料や水をやったことにしてサボったら作物は育たない。彼らは農業体験を通じて10代にして人間力を身につけたのでしょう。彼らには本当に教えられました」

 決勝戦から一夜明けた22日午後3時過ぎ、準優勝の盾を手に秋田空港に降り立った金農ナインを一目見ようと出迎えに集まった人たちは1400人に達した。27歳を頭に3人の娘を育てたピアノ講師の伊藤伸子さん(52)もそんな一人だ。金農出身の親友と急遽、決勝戦を観戦に甲子園まで飛んだ長女は、アルプス席から撮った試合の写真や動画をLINEで送ってくれた。伊藤さんは言う。

「毎試合ドラマを見ているように劇的で、大阪桐蔭がとことん強いことにも驚かされました。決勝戦の後は両校の選手たちが一緒に記念写真を撮影していて、素敵な光景でした。表からも裏からも丸ごといろんな側面が見られて高校野球のファンになりました。金農野球部のお陰でいい夏を過ごさせてもらいました。ありがとう、お疲れさま」 (編集部・大平 誠)

AERA 2018年9月3日号