多くの女性たちは、2人か3人の男性とつきあうだけで結婚していく。性の奥深さもわからない時期に子育てや仕事に忙殺され、夫には不信感だけが募っていく。子どもが大きくなって心に余裕が出てきたころには、夫との心的乖離が大きくなっていることが多い。



「夫とは今は可もなく不可もなく。結婚ってこんなものかもとあきらめがつくようになりました。でも私の中に芽生えた、オンナとして生きていきたい欲求は強くなっています」

 このようにアラフィフになって性的欲求に突き動かされ、行動を起こす女性は少なくない。

 タエコさん(52)も同様だ。20代で結婚し、ふたりの子をもうけたが30代前半で離婚。以来、自身の母親と同居し、必死で働きながら子どもを育ててきた。

「下の子が大学を出たとたん、母が急死。心にぽっかり穴が開いて……。そんなとき久しぶりに気分転換をかねて中学の同窓会に出席したんです。当時片思いしていた男性が、やはりバツイチになっていて意気投合。20年以上、恋愛もしてこなかったけどいきなり火がついてしまいました。体がほぐれるまでには時間がかかったんですけどね」

 今から2年ほど前のことだ。最初は体が硬直して、とても楽しめなかったが、彼が理解してくれて少しずつ体は柔らかくなっていった。それと同時に心にもゆとりが生まれた。

「何度目かのセックスでようやく私の中に彼を迎え入れることができたとき、うれしくて涙が出ました。これからはオンナとして生きていってもいいんだ、今までがんばってきたから彼に出会えたんだ、肌を合わせるとこんなにくつろげるんだ、といろいろな気持ちが交錯して」

 それから一時期は毎日のように彼と会ってセックスした。その時期をタエコさんは「狂い咲きみたいな感じだった」と笑う。

 何度でもしたい、何度でも感じる。もっともっとと体が要求した。そしてふたりして体調を崩してしまったのだという。

「彼も私も会社を休むはめになって。恥ずかしい話、誰にも理由が言えません(笑)。それからはお互いの健康に気をつけながら、そこそこに楽しもうと話し合いました。ただ、50代でもこんなに燃えることができるのはうれしかったですけどね」

 人生で初めて訪れた「獣のようにすべての理性を吹っ飛ばしてセックスした」時期があったことは、タエコさんにとって貴重な経験だった。

「誰に自慢することでもない。ただ、若くない今の年齢でそれほどまでに誰かを求めたり、快感を追求したりするような非生産的なことに没頭できる、それ自体が貴重だなと思ったんです」

 たとえ明日死んだとしても、「あれほどセックスしたんだから、まあ幸せだったな」と思えるとタエコさんは断言した。裏返せば、そういう経験をしないままに人生を終えたら後悔するということだろうか。(文中カタカナ名は仮名)(ライター・亀山早苗)

AERA 2018年7月30日号