小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
画一的な美を望んでいるのは誰か(撮影/写真部・東川哲也)
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画一的な美を望んでいるのは誰か(撮影/写真部・東川哲也)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 ボディーポジティブという言葉を最近よく聞きます。画一的な美の基準から自由になって、あるがままの自分の体を肯定しようという動き。プラスサイズの人気モデルも増えましたよね。

 アメリカでは「aerie」という下着メーカーが人気なのだとか。サイトを見ると、豊かな胸と引き締まったお尻と長い脚でお馴染みのヴィクトリアズ・シークレットのモデルたちとは違って、どこにでもいそうないろんな体形の女性をモデルに起用しています。商品はセクシーでデコラティブなデザインではなく、リラックスしたヘルシーな可愛らしさ。これが女性たちの共感を呼んで、売り上げを伸ばしているのだそうです。

 下着マーケットの巨人であるヴィクトリアズ・シークレットが売り上げを落としている一方で、こうした下着が支持される背景には、広告モデルやドラマのヒロインのような“男性目線の美の基準に縛られたセクシーで完璧なカラダ”から自由になろうという女性たちの心理があるようです。

 凹凸のない体形の私は数年前に脱ブラしてカップ付きキャミの愛用者となりましたが、後ろめたさを感じたこともありました。セクシーな存在であろうと努力することを放棄した自分は女性としてダメなんじゃないかと。

 でもね、女性を縛っているのは男性の欲望じゃないと思うんです。だって男性は結構寛容ですよ。温泉の大浴場に行けばわかるでしょう。大多数の女性の体形は、広告モデルとは程遠い。どこかがたるんでいたり足りなかったり。これが男性たちの見ているリアルな体で、彼らはそんな親しみやすい体形の恋人なり妻なりを愛しているのです。

 女性を縛ってきたのは、女性の頭の中にある理想の男性像。“いい男”はヴィクシーエンジェルみたいな恋人を望んでいるに違いない!と思い込んでいるけど、その“いい男”もまたリアリティーゼロです。

 ボディーポジティブは、広告が作り上げた架空の男性像と女性像を打ち壊す、みんなの解放運動なのかも。

AERA 2018年7月30日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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