稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
晴れの日を狙いウメを干す。赤紫蘇をケチったせいか色むらがハンパないがイイの適当で!(写真:本人提供)
晴れの日を狙いウメを干す。赤紫蘇をケチったせいか色むらがハンパないがイイの適当で!(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんが干したウメの写真はこちら】

*  *  *

 ウメ農家へ収穫のお手伝いへ行ったご褒美として、「誰かウメ送りたい人がいたらどうぞ!」と気前よく言っていただいたので、わーいわーいといろんな人に声をかけた。

 ところがこれが苦戦! かなりの高確率で「ウメはちょっと……」と断られたのであります。いや私とて人はそれなりに選びました。いずれも食べ物や料理が大好きな方々。プロの料理人もいる。ところが「梅干しにまで手を出せない」と、皆様腰を引くのです。いや全然簡単だから!と言っても信じてもらえない。

 実際、ホント簡単なんだよ。ヘタを取ったウメと塩を混ぜて重しをして置いておくだけ。これを晴れた日にザルに並べて天日で干せば完成。赤紫蘇を入れると赤くなって楽しいけどやらなくたって構わない……と具体的に説明しても、疑わしげな表情は変わらず。曰く「カビるのが心配」「瓶の消毒が面倒」「塩分濃度が分からない」などなど。いやそんなの適当でいいし! カビたらそこだけ除けばいいし、塩分もまずは平均的なとこでやればOKと力説するのだが、どうもますます後ずさりされているような……。

 で、ふと気付いたのであります。そもそも、この「適当」っていうのが皆様イヤなんじゃないか。可能な限り正しい方法で完璧にやりたいんじゃないですかねきっと。

 なるほど。でも保存食作りって「完璧に」というのは難しい。消毒しても気候その他でカビが生えることもある。塩が多いとカビにくいがしょっぱすぎるのも何なので、結局は試行錯誤しかない。なのであれこれ心配するよりまずテキトーにやっちゃえば、なーんだと肩透かし食らうほどうまくできるんだよ。やることやって、あとはほったらかし。その先はひたすら先祖の知恵と自然の摂理にお任せする。すると実際なんとかしてくださるのだからマジで驚きます。

 みんな頑張りすぎです。人にできることなどタカが知れている。だから適当でいい。誰かが助けてくれるから。そう知れば人生変わります。で、どうです梅干し作り?

AERA 2018年7月23日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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