Florian Weigensamer(写真左)、Christian Krones/ウィーンを拠点とするドキュメンタリー集団「ブラックボックス・フィルム&メディアプロダクション」として様々なテーマに取り組んでいる(撮影/写真部・小原雄輝)
Florian Weigensamer(写真左)、Christian Krones/ウィーンを拠点とするドキュメンタリー集団「ブラックボックス・フィルム&メディアプロダクション」として様々なテーマに取り組んでいる(撮影/写真部・小原雄輝)
「ゲッベルスと私」/東京・岩波ホールほか全国順次公開中。生涯独身を貫いたポムゼルは2017年に死去。この映画を気に入っていたという (c)2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH
「ゲッベルスと私」/東京・岩波ホールほか全国順次公開中。生涯独身を貫いたポムゼルは2017年に死去。この映画を気に入っていたという (c)2016 BLACKBOX FILM & MEDIENPRODUKTION GMBH

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【「ゲッベルスと私」の写真はこちら】

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■いま観るシネマ

 モノクロームの画面に現れる老女。深く刻まれたしわを大写しにされてもひるむことなく、明快な口調で語りはじめる。ナチスの宣伝大臣ゲッベルスの秘書として、戦争犯罪に「何も知らず」加担した、若き日のことを──。

 103歳の元秘書ブルンヒルデ・ポムゼルの独白と、貴重なアーカイブ映像で綴られるドキュメンタリー映画「ゲッベルスと私」。共同監督を務めたのはフロリアン・ヴァイゲンザマー(45)とクリスティアン・クレーネス(57)だ。

「ナチの権力の中枢にいた人物が、これだけ正直に話してくれたことに驚きました。彼女はいわば“悪の側”にいた人。でもそのことを隠そうとせず、美化しようともしませんでした」(フロリアン)

 与えられた仕事をきちんとこなしたかった、抵抗する勇気などなかった、強制収容所で何が行われているかまったく知らなかった──ポムゼルの独白にカメラは一切口を挟まない。

「私は戦後生まれとして『自分があの時代に生きていたら、何ができただろう』とずっと考えてきました。彼女の話を聞いて、当時の事情は私が思っていたよりもずっと複雑で難しかったということがよくわかった。そして好人物であることと、その人が何をしたかは別なのだとも思い知らされました。ポムゼルは聡明で冗談も言う、魅力的な女性だったのです」(フロリアン)

 撮影を進めるうち、二人はこの問題が歴史の検証ではなく、現在につながる問題であると感じたという。

「現在の欧州における経済危機、シリア、難民問題……そのなかで右翼政党が力を持ちはじめ、世界全体が右傾化している。そのことが歴史と照らし合わせてどれだけ恐ろしいことかを彼女の言葉は認識させてくれます」(クリスティアン)

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