そして映画は決して彼女を断罪するものではない。二人は声をそろえる。

「もちろんです。彼女はこう言っていました。『私の語ることは、過去から未来への警告だ』と。我々は常に外の世界に目を開き、『自分がやっていることはなにか』『行動すべきときはいつなのか』、自分のモラルと突き合わせて考えなければならないのです」

◎「ゲッベルスと私」
東京・岩波ホールほか全国順次公開中。生涯独身を貫いたポムゼルは2017年に死去。この映画を気に入っていたという

■もう1本 おすすめDVD「ハンナ・アーレント」

「私は上司に言われたことをタイプしていただけ」──ポムゼルの言葉は、まさに映画「ハンナ・アーレント」で描かれた「悪の凡庸さ」を想起させる。公開当時、日本でも社会現象になるほど大ヒットした作品だ。

 1960年、ナチス戦犯のアイヒマンが逮捕され、ドイツ系ユダヤ人の哲学者ハンナ・アーレント(バルバラ・スコヴァ)が裁判を傍聴する。彼女が見たのは「自分はヒトラーの命令に従っただけ」と繰り返す、平凡な男だった。

 アーレントは「人間は上司や組織の命令で、本人の人格に関係なく、思いがけない残虐な行為をしてしまうものなのだ」とし、それを「悪の凡庸さ」と定義する。アイヒマンを「凶悪な怪物」としたい世間は衝撃を受け、アーレントは激しい非難を浴びてしまう──。

「どんな状況下でも“思考を失うこと”が、人類を破滅に追いやる」という彼女の感動的なスピーチは、ポムゼルの言葉と同様に、まさにいまの我々に突きつけられている。

◎「ハンナ・アーレント」
発売・販売元:ポニーキャニオン
価格4700円+税/DVD発売中

(ライター・中村千晶)

AERA 7月16日号