5月28日に官邸で拉致被害者家族と会う安倍晋三首相(右)。米朝首脳会談が「拉致問題が前進する機会とならねばならない」と語る (c)朝日新聞社
5月28日に官邸で拉致被害者家族と会う安倍晋三首相(右)。米朝首脳会談が「拉致問題が前進する機会とならねばならない」と語る (c)朝日新聞社

 米朝首脳会談は「中止」から一転、「予定は変えていない」。トランプ大統領に安倍晋三首相も振り回される。

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「6月12日、シンガポール」へサプライズ続きのトランプ劇場だが、ジェットコースター並みに揺れた5月下旬の展開は安倍氏に酷だった。

 トランプ氏は5月24日、北朝鮮の金正恩委員長あて書簡で首脳会談の「中止」を表明。安倍氏は25日、日ロ首脳会談のため訪れたロシアのサンクトペテルブルクで記者団に言い切った。

「米朝首脳会談に向けトランプ大統領と緊密に連携しており、方針は完全に一致してきています。実施されなくなったことは残念ですが、大統領の判断を尊重し、支持します」

 実は北朝鮮が事前協議に応じないという米国情報をふまえた発言だった。が、トランプ氏は直後に「米朝首脳会談を元通りにするため協議中だ」とツイート。さらに26日には韓国の文在寅大統領が4月に続き金氏と板門店で急遽、会談し、「6月12日の米朝首脳会談が成功せねばならない」と励ましあった。

 中国も「歩み寄って会うことを望む」(外務省報道官)と言い続けた。安倍氏は結局、26日のプーチン大統領との会談で「成功へ後押しすることで一致」と足並みをそろえた。

 朝鮮半島の非核化を探る北朝鮮と米中日韓ロの「6者」。各国の首脳の中でとりわけ今回の米朝首脳会談に身構える安倍氏の本音が、「中止支持」という形であらわになった。

 理由は拉致問題へのこだわりだ。他国の首脳らは米朝首脳会談の先に朝鮮半島の平和構築を語るが、安倍氏は「何よりも重要な拉致問題が実質的に前進する機会に」と強調する。

 安倍氏が「全ての被害者の即時帰国」を唱える拉致問題は、北朝鮮が「解決済み」の姿勢を示して14年。日本政府は、金氏が体制保証を熱望する史上初の米朝首脳会談を拉致問題進展の貴重なテコと捉え、「解決済み」と言われて終わらないよう米国への説明に精力を注ぐ。

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