老朽化する関西のある養護老人ホーム。入居者の7割が80歳以上。生活保護を受けて入所している人もいるという(撮影/編集部・澤田晃宏)
老朽化する関西のある養護老人ホーム。入居者の7割が80歳以上。生活保護を受けて入所している人もいるという(撮影/編集部・澤田晃宏)

 経済的困窮などを抱えた高齢者のセーフティーネットである養護老人ホーム。その存在が今、危ぶまれているばかりか、対象者であっても入所できない実態も浮かび上がった。

 関西地方に住む女性(82)は生活保護を受け、息子と2人で暮らしていた。毎朝4時に起き、近所を散歩する。自宅に戻って朝食の準備をし、テレビを見ながら息子と朝食をとるいつもの朝。自分の中で何かが切れた。

「40代後半になる息子は、仕事もせず、何か気に入らないことがあると、毎日のように頭をぽんぽん叩く。平手打ちのときはとっても痛い。ふと嫌になって、家を飛び出したんです」

 着の身着のまま。ポケットには千円札が1枚。福祉事務所に駆け込み、状況を話した。女性は他府県にある「養護老人ホーム」に緊急措置された。

 養護老人ホーム(以下、養護)とは、介護施設である特別養護老人ホーム(以下、特養)とは違い、福祉施設に分類される高齢者向け住宅の一つだ。民間企業が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)とも違い、地方自治体や社会福祉法人が運営している。養護の前身は身寄りのない高齢者を収容した「養老院」で、全国に976施設ある(2017年11月現在)。今は身体的には日常生活に支障はないものの、経済的、環境的理由で在宅生活が難しい65歳以上の人が対象になっている。

 ただ、希望すれば入所できるわけではない。各自治体が設置する入所判定委員会で必要性が認められ、初めて「措置」される福祉施設だ。いわば経済的困窮などを抱えた高齢者の最後の住のセーフティーネットだが、その存在が危うくなっている。

 昨年暮れ、関西のある養護老人ホームを訪ねた。開所から40年以上が経過していた。居室のエアコンは正常に稼働せず、壁紙がはがれた廊下の壁も、そのままだ。施設長はこう話した。

「改築計画を市と話していますが、養護への措置数が右肩下がりになっていることから、大規模修繕や改築に税金を投入することは否定的です」

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