──普通の人は人間の「死」を受け入れることは難しいかもしれません。

「生きる」ということは、死ぬために生きることです。だって、人間は死に向かって生きているでしょ。だからこそ命を燃やして生きるんです。今の世の中は命がかすんでいるような気がする。命をかけて生きていたら、この世につまらないことなんてありません。私は見ませんが、インターネットには他人の誹謗中傷があふれかえっているらしいじゃないですか。けれども、命をかけて生きていたら、人に恨まれたり傷つけられたりするものです。私もさんざん叩かれて、悪口を言われてきました。人の悪口を言う人のほうがみっともないじゃないですか。だから人に悪口を言われて傷ついている人は、絶対に諦めてはいけません。

──寂聴さんは「原発」や「憲法9条改正」に反対する立場を明確にされています。なぜ、90歳を超えて政治的な発言を続けるのでしょうか?

 今年1月に出版した『死に支度』という文庫の中でこう書いたんです。「歳をとってから、私はもうあとわずかなこの世だから、大急ぎで身の回りの後始末をして、きれいさっぱりあの世に行きたいと思っていた。九十年余りのこの生活は、私なりにいつでも全身全霊で、捨身で生きてきたから、思い残すことはないのよ。(中略)無我夢中でいつでも精一杯一生懸命に命を張って生きてきたから、人のいうあの頃の苦労なんて思い当たらないの。いつでも生きた、書いた、恋したの生涯で、支えてくれたのは自分の情熱ひとつだったから、ほんとにかっこいい一生だと思ってる。わくわくどきどきし通して有難い一生だった」

 けれども死ぬ間際になって東日本大震災に続いて、原発の事故でしょ。それに安倍政権は憲法9条を変えて、日本をまた戦争のできる国にしようとしているじゃないですか。私は敗戦を中国の北京で迎えました。内地のように激しい戦禍は体験していませんが、それでも戦争の恐ろしさは身にしみています。だから今の政治は許せないんです。その政治を許しているのは私たちですから、国会前に集まってデモをするとか行動しなければならない。私も国会前に行って発言しました。小説家はただ書くだけでなく、世の中がよくなるように動かなければならない。私のところにね、国会前で声をあげてきた若い女の子が訪ねてきたことがありました。彼女たちに「恋とは革命よ」と言ったら「やってます」と言うのね。頼もしいじゃありませんか。

次のページ