法政大の藤原さんは「雇用分野の男女平等を標榜しつつ、他方で家族責任の分断・性別分業の強化・非正規雇用の拡大の道を開き、妻の座の経済的優遇と母子世帯への給付制限を行った1985年こそ、『貧困元年』である」(前掲論稿)と断じる。

 たとえ新卒時から正規職員でも、シングル女性の老後は「妻」と比較して平等とはいえない。

 県立高校の正規学校司書として定年まで勤務したシングル女性のDさん(68)が受け取る共済年金は、年166万5千円。「退職金と合わせて暮らしていけます」。だが、大企業で働く月収62万円の夫の遺族年金(遺族基礎年金+遺族厚生年金)モデルは、配偶者と子2人で年199万3700円。働き続けてきた、Dさんの年金より上なのだ。

 一方、総合職の一握りの高収入女性たちの多くは、結婚・出産をあきらめざるを得ず、従来の「男性並み」に働いてきた。

 宮本さんは言う。

「彼女たちは必死に働きながら、いつ転落するかわからない細い道を歩いているわけです」

 時代は変わり、もはや専業主婦もいつまで守ってもらえるかわからない。男女平等の労働環境や制度整備を後回しにしてきた社会のツケが、ありとあらゆるところに噴出していることは間違いない。(ノンフィクション作家・黒川祥子)

※1 ひとり親家庭などに支給される手当。1961年創設。ひとり親家庭などの生活の安定と自立の促進に寄与し、子どもの福祉の増進を図ることを目的とする。
※2 被相続人の療養・看護に尽くした相続人に付加される相続分。
※3 配偶者控除を補う所得控除。配偶者に38万円を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられない時でも、配偶者の所得金額に応じて、一定の所得控除を受けることができる。
※4 会社員や公務員などの第2号被保険者に扶養されている配偶者(年収130万円未満)を第3号被保険者とし、保険料を負担せずとも老齢基礎年金を受け取ることができる。
※5 「貧困元年としての1985年 制度が生んだ女性の貧困」(藤原千沙「女たちの21世紀 No.57」2009年3月19日)

AERA 2018年5月14日号