女性の貧困の放置。社会学者の宮本みち子さんは、それが日本社会の足かせになったという。

「90年代には出生率と婚姻率の低下が始まっていましたが、女性はいずれ結婚し、大黒柱に扶養されるだろうと甘い見通しがあった。『会社と家族』という社会構造の根幹からはみ出た人を、守る制度を作ってこなかった。予想以上の出生率低下と非婚化社会を迎え、それが命取りになっています」(宮本さん)

 国が危機感を抱いたのは10年になってからだ。宮本さんは「失われた
20年」と見る。

 今や、シングルマザーばかりか、シングル女性の貧困が顕在化している。日本型福祉社会では想定外の女性たちだ。

 15年の平均賃金を見れば、女性の「正社員・正職員以外」が181万円。貧困基準である年収122万円よりは上だが、ギリギリの生活であることは間違いない。

 都内で一人暮らしをするBさん(52)は、大手住宅メーカーの派遣社員だ。3カ月更新の雇用契約で、時給は1700円、派遣会社から雇用保険、社会保険、厚生年金等を引かれて手取りは月20万円ほどだ。

「家賃が6万7千円、光熱費を払い、食べていけるギリギリの額です。交通費が出ないので、仕方なく家賃が高い都内に暮らすしかなくて。祝日が多いと手取りは17万円ぐらいになる。病気になったら医療費もないし、即、生活は破綻します」

 15年の派遣法の改正で、同じ派遣労働者を同一組織に派遣できる上限が3年となった。

「派遣会社から紹介される時に、最初から『3年しか働けません』と言われます。3年ごとに職場を変わるって不安です。貯蓄なんてありませんし、年金もないに等しい。将来のことは怖くて考えられない」(Bさん)

 在京メディアの事務職に就くシングル女性のCさん(61)は40代半ばで契約社員から正社員となり、60歳で定年。今はシニアスタッフとして働く。

「定年時に退職金は出ましたが微々たるもの。65歳過ぎても働かないと、年金だけでは暮らせない。同居する高齢の母の介護問題もあるし、将来どうなるか」

 そこにあるのは、20代から働き続けても、生計維持は難しいという現実だ。なぜ、働いているのに食べていけないのか。前出の宮本さんは言う。

「女性が一家を支えることを前提にしてこなかったのです」

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