「ラッカは静かに虐殺されている」/スマホを武器にラッカの惨状を伝える市民ジャーナリスト集団「RBSS」。メンバーはいまも国内外に分かれ、死の恐怖のなかで発信を続けている。アップリンク渋谷、ポレポレ東中野で公開中。ほか全国順次公開 [アップリンク提供 「ラッカは静かに虐殺されている」(c)2017 A&E Television Networks,LLC | Our Time Projects, LLC]
「ラッカは静かに虐殺されている」/スマホを武器にラッカの惨状を伝える市民ジャーナリスト集団「RBSS」。メンバーはいまも国内外に分かれ、死の恐怖のなかで発信を続けている。アップリンク渋谷、ポレポレ東中野で公開中。ほか全国順次公開 [アップリンク提供 「ラッカは静かに虐殺されている」(c)2017 A&E Television Networks,LLC | Our Time Projects, LLC]

 イスラム国(IS)の占領と暴力、破壊を経た現地の状況を内側から伝えるドキュメンタリー映画「ラッカは静かに虐殺されている」が現在公開されている。2014年、過激派組織「イスラム国」(IS)に占領されたシリア北部の街・ラッカの惨状を、スマホを武器にSNSに投稿し続ける市民ジャーナリスト集団「ラッカは静かに虐殺されている(RBSS)」の活動を追ったもの。再び緊迫する情勢を前に、我々は何を受け取り、どう行動すべきか。

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 ドキュメンタリー映画の公開をきっかけに、シリアの現状を伝えるイベントも増えている。先日、東京大学で行われた「アジアを知る──映画『ラッカは静かに虐殺されている』」では、映画の上映とともに、関係者によるパネルディスカッションが行われ、「国境なき医師団」の看護師・白川優子さんが昨年までラッカに赴任していた経験を語った。

「一般的に紛争地帯では爆撃や銃撃による負傷者が多いのですが、ラッカでは9割が地雷による被害でした。ISが街を取り囲むように地雷を埋めて、市民を“人間の盾”にしたのです。そのなかで市民は空爆から逃れるために、地雷原を越えようとして被害にあってしまう。ISがいなくなったからといって、問題がすぐに終結するというものではない。市民が抱える困難はますますひどいと感じます」

 映画を受け取った我々に、できることはあるのか。「ラッカは静かに虐殺されている」の監督マシュー・ハイネマン、RBSSのハッサンも異口同音に「まずは現状を知ってもらうことだ」と話す。ハッサンはこう続ける。

「そして、あなたが見たことを人に伝えてほしい。ISの思想は世界中に散らばり、あらゆる場所が危険にさらされている。パリの同時多発テロの首謀者たちはヨーロッパの出身だった。日本でもテロが起こらないとは限らないのです」

 RBSSの活動資金支援に協力することもできる。映画の公式ホームページからアクセスも可能だ。東大でのイベントを共同主催した「中東映画研究会」顧問で東大東洋文化研究所の長沢栄治教授は話す。

「我々のひとりひとりが彼らとつながっており、『(彼らのことを)忘れていないよ』と発信する。そのことが大事なのだと思います」

(ライター・中村千晶)

AERA 2018年5月14日号より抜粋