藤井聡太六段の大活躍でブームに沸く将棋界。しかし、いまだ女流という粋を飛び越えて「棋士」に昇格した女性はいない。プロ棋士養成機関「奨励会」の最終関門、三段リーグに所属してきた里見香奈さん(26)は3月、年齢制限のため退会した。壁を超える「あと一歩」には何が必要なのか。
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私の小学生時代には、小学生名人戦全国大会の参加者約300人のうち、女子は10人いたかどうか。奨励会時代は男性棋士に練習将棋をお願いしても、断られることも珍しくありませんでした。最近は地元の大会でも3割が女子ですから、隔世の感があります。里見さんの強さは浸透しましたし、現在三段の西山朋佳さんはまだ22歳。棋士誕生の可能性は十分あります。
私自身の棋力が上がってきたと感じたのは20歳を過ぎてからです。持ち時間が1~1時間半という短い対局から2時間の女流棋戦を経て、男性棋士相手に3~5時間の対戦を繰り返すことで、相手の強さを吸収していくような感覚を得ました。
将棋は江戸時代にはすでにプロに近い制度がありましたが「女が指すものではない」という風潮でした。その中で、今年引退された蛸島彰子女流六段(72)が先駆者となり、私と清水市代さん、林葉直子さんの世代が続き、さらに今へとつながってきました。一足飛びに男女差を超えるほど歴史は浅くありませんが、決して不可能とは思いません。
私の感覚でいうと、女性は定跡を覚えることが得意で、男性は実戦でオリジナルを加えていくことに長けているような気がします。人工知能が強くなり、定跡もどんどん進化して、昔と比べても勉強方法もたくさんあります。この世界は「こんな手はない」という抽象的な表現の指導や根性論がまだ残っていますが、スポーツの分野と同様に、メンタル面も含めて女性に合った指導方法もあると思います。それを体系的に言語化し、コーチングを確立できないか。最近はそんなことを模索しています。
(構成/編集部・大平誠)
※AERA 2018年5月14日号