神田外語大を卒業し、現在は航空系企業で働く長尾滉さんは、在学時(4年)に野球大会の「第9回 BFA U-15アジア選手権」でボランティアを体験した。韓国語専攻で1年間ソウルに留学していたので、流暢に韓国語を話す。

「日韓戦は、想像以上の緊張感でした。出場する15歳以下の子どもたちは、試合前にナーバスになってしまい……。言葉の通訳だけでなく、気持ちをケアするように気を配りました」

 酒井さんには個人的なエピソードがある。前回の東京オリンピックが開かれた1964年に東京外国語大学に進学。当時はドイツ語を専攻しており、代々木に設置されていた選手村でボランティアを行った。

「今年の平昌冬季オリンピックで韓国と北朝鮮が南北合同チームとして戦ったように、東西ドイツが統一チーム(東西統一ドイツ選手団)で戦っていました。東と西の選手は仲が悪いと思っていたら、めちゃくちゃ仲がいい。政治的な思惑と人間は違うということに感動しました。オリンピックは人生を変えるほどのパワーがあります」

 平昌冬季オリンピックには、外大連合から100人の学生が言語サービスボランティアに参加した。空港のグランドスタッフとして働く山下奈都子さん(神田外語大卒)は、チョンソン会場に派遣され、チケットの確認を行った。

 話を聞いてみると、山下さんが高校生の時に東京オリンピックの開催が決まったらしい。最初は理系大学を志望していたが、ボランティアをしたくて方向転換したという。

「ゲートを通るとき、お客様はオリンピックに来たというテンションがマックスになる。顔のペインティングや持ち物から国がわかれば、その国の言葉で一言挨拶しました。それだけでとても喜ばれた。最初に接する私たちが、気持ちを盛り上げないと!」

 前出の長尾さんは、堪能な語学力を買われて、全学生のリーダーを務めていた。

「大学生活の集大成として、ぜひ参加したかった。ボランティアは授業や教科書からは得られない、生きた体験。僕たちの言動は常に見られていた。学生みんなが日の丸を背負ったつもりで行動しました」

 東京オリンピックという大舞台で、学生たちはどんな活躍を見せてくれるだろうか。(ライター・柿崎明子)

AERA 2018年4月23日号より抜粋