葛飾北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」/天保2(1831)年前後の作品。「赤富士」の通称で知られるが、NHKの8K・超高精度カメラによって、意外な事実が明らかになる(写真:すみだ北斎美術館提供)
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 凱風快晴」/天保2(1831)年前後の作品。「赤富士」の通称で知られるが、NHKの8K・超高精度カメラによって、意外な事実が明らかになる(写真:すみだ北斎美術館提供)

 北斎がブームだ。特に海外のファンが熱く、イギリス発のドキュメンタリー映画も公開中。その魅力はどこにあるのか。

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「なんということだ! 素晴らしい」──。

 ドキュメンタリー映画「大英博物館プレゼンツ 北斎」のなかで、北斎研究者のロジャー・キース氏は目に涙をにじませて語る。NHK取材班の8K・超高精度カメラによって、葛飾北斎(1760~1849)の「冨嶽三十六景 凱風快晴(通称・赤富士)」の初期の刷りから、ある真実が浮かび上がるシーンだ。

 映画は2017年にイギリス・大英博物館で開催された初の北斎展を中心に展開する。日本、アメリカ、イギリスの共同制作のもと、90歳まで描き続けた天才絵師の技法や作風の移り変わり、その人生までを徹底解剖する内容だ。

 大の北斎ファンだという芸術家デイヴィッド・ホックニー氏も登場し、改めて海外での北斎人気の高さに気づかされる。

「特に欧米人の北斎好きは本当にすごい。弊館でも開館前から外に並んでいるのは大体フランス人です。彼らにとって北斎は神様ですから」

 東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」の学芸員・五味和之さん(59)は話す。北斎の出身地に16年にオープンした同美術館には、これまでに40万人以上が来場。その約1割が外国人だという。海外メディアからの取材依頼も多い。

 常設展示のフロアには、絵を解説するタッチパネルが置かれ、日本語のほか英語、韓国語、中国語(簡体字と繁体字の2種)にも対応している。開館当初から外国人来館者を想定してはいたが、「予想以上だ」と五味さんは言う。

「北斎は生涯に3万点の絵を描いたと言われています。多くは版画なので、おそらく1千万枚以上の作品が存在した。しかしそのほとんどが海外に流出してしまい、結果、日本人よりも外国人のほうが北斎を目にする機会が多くなったのです」

19歳で勝川春章の門に入った北斎は狩野派、土佐派、琳派の一門である宗理派などさまざまな流派を渡り歩いた。圧倒的な画力と技術力で、それぞれの派のリーダー格になると、また次の門を叩くことを繰り返し、多彩な画風を身につけたという。

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