ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
ぐっちーさん/1960年東京生まれ。モルガン・スタンレーなどを経て、投資会社でM&Aなどを手がける。本連載を加筆・再構成した『ぐっちーさんの政府も日銀も知らない経済復活の条件』が発売中
(c)朝日新聞社
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 経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。

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 先週号は、国立情報学研究所の新井紀子先生とわたくしの対談が載っております。AIに負けないために、という点に関してかなり議論したのですが、実際の記事は簡単にまとめてしまっていて、ちょっともったいない(笑)。

 さらに別の記事にAIに負けない人材になるためのアドバイスがあります。しかし、おそらく対談を読まずに書いたと思われ、2人が一番強調したいことが抜け落ちている。読解力、思考力、コミュニケーション力と挙げているのですが、対談で出ているように重要なのはこれらのもとになる語彙力と、リアルな体験に基づく想像力。特に後者はどうひっくり返ってもAIは取り扱えないものなのです。

 高度な研究をしている開発者に「研究が実現した時に誰がいくら払ってくれるの?」というリアルを突きつけると、答えられない人がほとんどだということこそが最大の問題です。AIにはリアルな体験をさせることは不可能なので、その体験とそれに基づいた想像力こそ人間が鍛えるべきフィールドなのです。

 ビジネスの現場でもまったく同じ。岩手県紫波町のオガールの成功例を見て、「なーんだ、図書館と産直をくっつければいいんだ」と考え、同じような施設が全国に補助金を使って建てられています。これなんかは読解力も、想像力も何もない典型例です。しかし、結構立派な学歴のお役人さんが大真面目にやるわけです(そして大赤字になる)。

 やるなら彼らに1人1千万円ずつ株を引き受けさせるべきです。そうしないと「リアル」にならない。我々のような倒産寸前というリアルな体験をしたことがないから「絵に描いた」を補助金で実現することに邁進してしまう。

 インバウンドの話も同じで、日本全国あちこちから呼ばれますが、「どうやったら外国から人が呼べるでしょうかね~」的な質問がほとんどなわけですよ。「あの、一口に外国人と言いますが、どの国の、どの年齢層の、どの程度の年収の人を呼ぼうとしているのですか」という当たり前の質問に誰も答えられない。そしてやみくもに200億円とか費やして箱モノを造っている。そんなもん、造ったって誰もお金なんて落としてくれません。まさにリアリティーに欠ける人たちのせいで発展が妨げられる、というのが恐ろしい日本の現実なわけです。

AERA  2018年4月23日号

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