そもそも、私学助成金の基準厳格化で影響を受けるのも都市圏の大学であり、導入の背景には「都市部への進学者流出の抑制」の狙いがある。だが、前出の安田さんはその効果に懐疑的だ。「首都圏の有名私大は、学生の7割以上が1都3県の出身です。定員厳格化で、残りの3割が地元の私大や国公立に進路を変えるかといえば、ごく少数でしょう。地方から東京の大学を目指す受験生は『東京で暮らすこと』が目的でもある。併願を増やし、偏差値を落としてでも東京の大学に入学します。都心で定員割れしていた大学の志願者数が増えることはあるかもしれないが、地方の大学に好影響を与えられるとは思いません」

 文科省は定員厳格化の導入をどう考えているのか。高等教育局私学助成課の担当者は文書でこう回答した。

「三大都市圏の大・中規模大学(収容定員4千人以上)に定員超過学生が集中している状況を踏まえて、教育条件の維持、向上および地方創生の観点から、入学定員超過の適正化に関する基準を改正しました」

 この「目的」に対して、どの程度の「効果」が表れているのかを問うと、

「14年度の三大都市圏の大・中規模大学の定員超過学生が約2万7千人であったところ、17年度には約2万人となっており、三大都市圏の大・中規模大学における定員超過学生の集中に対して、一定の効果を上げているものと思われます」(同)

 地方への波及効果については、明確な回答は得られなかった。駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一さんは、文科省が本当に地方創生を実現したいのであれば、「地方の大学に進学するインセンティブをつけるしかない」と語る。

「地方には省庁の出先機関もある。その国家公務員は一定数を地方の大学から優先的に採用するなどメリットを提示しないと、受験生が地方の大学を目指すモチベーションにはならない。私大の定員数を絞るだけでなく、もっと大胆に予算をつけた施策を考えるべきでしょう」

19年度入試でも、定員厳格化のしわ寄せは、確実に受験生に向かうだろう。浪人生の増加により、現役生にはより厳しい受験戦線になることも予想される。併願する学校、学科選択を含めて、19年度はより慎重な「戦略」が必要となりそうだ。(編集部・作田裕史)

AERA 2018年4月23日号より抜粋