「世帯視聴率で見ると8%弱で、決してすごい数字ではない。でも4歳から6歳の女児というターゲット視聴率では60%を超えたこともあって、これは驚きました」(鷲尾さん)

 ところが、そんな状態で鷲尾さんはまさかの行動に出る。3作目「ふたりはプリキュア Splash☆Star」で、主人公のプリキュアのキャラクターを総とっかえしたのだ。「仮面ライダー」など男の子向けの特撮ではなじみの方法だが、女の子向けアニメでは初めての試みだった。鷲尾さんは笑う。

「言ってみれば暴挙に出た。でも同じキャラクターで続けると途中から入って視聴するのが難しくなるんです。今はいいけどこのままいったら4年くらいで終わるかもしれない。だったらプリキュアという概念だけを残して世界観を変えたほうが毎年新しい子どもたちが入ってこられると思ったんですね」

 しかし、結果は視聴率も関連商品の売り上げもあからさまに落ち込んだ。このとき女の子の間で大ブームとなっていたのがセガの「オシャレ魔女・ラブandベリー」。着せ替え遊びができる女の子向けのトレーディングカードゲームだった。

「ああ、こうやって人気は移り変わっていくんだ、チャレンジは失敗したと思いました(笑)。でも開き直った。せっかくだからもう1年だけやらせてほしいと言って、戦隊ものを意識してチームにしたんです」(鷲尾さん)

 翌年スタートした「Yes! プリキュア5」では変身する女の子を5人に増やし、以前はあえて無視した「女の子はこういうものが好き」というデータも積極的に取り入れた。元気キャラからクールキャラ、かわいい妹キャラなど、性格によってコスチュームの色を変え、女の子の好みをより多くすくい上げた。

 結果、放送開始から2カ月後、すべての数字が上向きになった。翌年の続編「Yes!プリキュア5GoGo!」では再び4歳から6歳の女児の視聴率が60%を超える。成功を受けて鷲尾さんは作品を離れ、6作目からは1年ごとにキャラクターはもちろん、プロデューサーや監督、シリーズ構成をするライターも入れ替わる現在のスタイルになった。(ライター・大道絵里子)

AERA 2018年3月26日号より抜粋