姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
問題は北朝鮮がどういうプロセスであれば核凍結に応じるのか(※写真はイメージ)
政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
* * *
平昌(ピョンチャン)オリンピックとパラリンピックが無事に閉幕しましたが、このオリンピックを契機に朝鮮半島をめぐる政治も大きく動きました。
3月5日、金正恩(キムジョンウン)氏が韓国特使団と平壌(ピョンヤン)で会談し、4月末の南北首脳会談に合意しました。さらにはトランプ大統領が金正恩氏からの要請を受け入れ、5月までに米朝首脳会談に応じる意向を明らかにしました。
韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は「盧武鉉(ノムヒョン)政権の轍は踏まない」という学習効果をしっかりと肝に銘じていたのだと思います。米韓関係を抜きにして南北だけの見切り発車では、結局は挫折することが痛いほどわかっています。平昌オリンピックの水面下で、何とか北朝鮮と米国とを引き合わせたのでしょう。
今のところ北朝鮮は核・ミサイル凍結を約束していますが、ペンス副大統領が「北朝鮮が核開発終結に向けた永続的かつ検証可能で具体的な行動を取るまで、すべての制裁と最大限の圧力は続く」と声明を発表しているように、米国の一貫した「最大限の圧力」の姿勢は変わっていません。
しかし、圧力一辺倒だけでこのままごり押しした場合、北朝鮮側はレジームチェンジの試みだと理解するかもしれません。そうなれば強い反発が予想され、一気に米朝の危機的対立にまで切迫してしまいます。
核の凍結廃棄、休戦協定を平和協定へ。そして国交正常化、その次の段階で人権問題、北朝鮮内部の人道的問題への圧力と、いくつかの段階を踏んだアプローチが必要です。文政権のブレーンの補佐官が言うように、最大限の圧力の中の最大限の慎重さが必要です。これから春に向けて正念場を迎えます。その点でこの最大限の圧力と最大限の慎重さは、密接に組み合わされなければいけません。
※AERA 2018年3月26日号