うめだ・さとし/1979年生まれ。電通コピーライター。直近のコピーに、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)(写真:本人提供)
うめだ・さとし/1979年生まれ。電通コピーライター。直近のコピーに、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)(写真:本人提供)

 強気な言葉で自身を鼓舞し、結果を残してきた羽生結弦選手。コピーライター・梅田悟司さんは、その“言葉”が持つ力について次のように説明する。

*  *  *

 秀でたアスリートの言葉は強く明快で、人の心を打つものです。なかでも羽生結弦選手の言葉は群を抜いていると感じます。

 あの強さは、「感覚=身体性」と「理性=言語」がシームレスにつながっていることからきているのではないでしょうか。頭の中が「モヤモヤ」していると集中力が妨げられます。「モヤモヤ」は考えていることを言葉にできていない状態。言語化できるまで考え抜かれていないから邪念が生まれ、心身のコンディションが不安定になる。

「言語化」とは言ってみれば、無意識を意識化することで、それができれば、昨日やったことは今日もできる。「体が覚えている」などと言う人は、頭では完全に理解できていないのでしょう。羽生選手は、自らの身体経験を客観視し、理解できているのだと思います。失敗や悔しいという気持ちについて言及するコメントも、自分が身をもって体験したことを客観視できているから出てくるのでしょう。

 もう一つ、羽生選手の言葉から強く感じるのは「セルフリーダーシップ効果」です。

 いわゆるリーダーは、他者を率いたり鼓舞したりするために言葉を使います。大事なのは「具体的で解像度の高いビジョン」の設定。まるで未来を見てきたかのような明確なビジョンが、周囲の賛同と行動を引き起こすからです。

「4回転ジャンプをマスターして日本男子初の金メダリストになりたい」
「王者になる。まずそう口に出して、自分の言葉にガーッと追いつけばいい」

 といった羽生選手の言葉はまさに解像度が高く、自らを鼓舞し高みへと昇っていけた一因ではないかと考えられます。

 世の中は語彙(ごい)力ブームですが、私が大事だと思っているのは、語彙力や伝え方などの表面的なものではなく、自分の中から感情として湧き出てくる「内なる言葉」です。言葉は思考の上澄みにすぎません。思考を磨かなければ言葉の成長は難しい。

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