「谷川さんの詩って、受け取った人がそれぞれに完成させていいものだと思うんです。読んだ人が自分なりに解釈していい。だから押しつけがましくない。そこが一番の魅力かな」

 こんなエピソードもある。

「昔、学校で谷川さんの詩がテストに出たことがあって。『主人公の気持ちはどういうものだと思いますか』みたいな。それで僕、三角かバツをもらったんですよ。それで本人に『これは、この解釈とは違うのか?』と聞いたら『別に弦の解釈で、いいんじゃない?』と言われた。本人もどう解釈してもらっても自由、と思ってると思いますよ」

 多作ぶりに驚かされるが、谷川が創作に悩んでいるところを見たことがないという。

「食事中に何かをメモしたりするのも見たことがない。話していて上の空っぽいことはあるけど、別にあれは詩を考えてるんじゃないと思うな。普段から詩を考えてるタイプには見えない。たぶんパソコンの前に座ったりすると、詩が出てくるんじゃないのかな。いつだったか(谷川さんの息子の)賢作さんが『詩のガチャガチャだ』って言ってましたよ。お金を入れて回すと詩が出てくる、って」

 谷川は若い世代との交友も幅広い。音楽家・小山田圭吾(コーネリアス)とインターフェースデザイナーの中村勇吾(thaltd.)とのコラボレーション作品、谷川からの質問に詩人・最果タヒ、漫画家・浅野いにおなど16人が答える<谷川俊太郎から「3.3」の質問>もユニークだ。

「『もし人を殺すとしたら、どんな手段を選びますか』って質問、いじわるだよねえ(笑)。それにSiriに答えさせているところが谷川さんっぽい。谷川さんは割と“新しいもの好き”なんですよ。もともと機械いじりが好きだし、掃除機もダイソンだし」

 さらに弦さんが目を留めたのは、谷川がつけていた「出納帳」。原稿料がどの出版社から幾ら入った、などが詳細に書いてある。

「谷川さんってこういう細かいことをするのが好きなんですかね。オフクロは『ケチだ』ってよく言ってましたけど(笑)」

 誰もがどこかで谷川の作品に触れている。展覧会をまわると、その凄さを改めて感じる。

「詩の世界にもうこんな人、出てこないでしょうね。86歳のいまも元気ですよねえ。動きのスピードはだいぶおじいさんらしくなってきたけど。僕にとって谷川さんは昔から常にシャカシャカシャカッって動いているイメージなんです。悪く言えば落ち着きがない。だからあまり長い時間、ずっと一緒にいるという感じではないんですよね。谷川さんは飽きちゃうんでしょうね、きっと。同じところにずっといるのが」

(ライター・中村千晶)

(文中一部敬称略)

AERA 2018年3月19日号