150年前に壮絶な籠城戦があった、福島県会津若松市の鶴ケ城(若松城)。2011年、地元の人たちの願いで、赤瓦に葺き替えられた。幕末の鶴ケ城は、赤瓦だったとされる(撮影/写真部・小林修)
150年前に壮絶な籠城戦があった、福島県会津若松市の鶴ケ城(若松城)。2011年、地元の人たちの願いで、赤瓦に葺き替えられた。幕末の鶴ケ城は、赤瓦だったとされる(撮影/写真部・小林修)

 明治維新から150年を記念するイベントがあちこちで行われている。しかし維新から近代日本の歩みは、単純にたたえられる部分だけでできているわけではない。歴史とどう向き合っていくべきか、改めて考えたい。

「明治150年」。北海道から沖縄まで、いま全国でこの言葉が飛び交っている。維新から150年を記念して、国や地方のイベントがあちこちで開催されているのだ。内閣官房「明治150年」関連施策推進室によれば、イベントの数は実に2008件。国が音頭を取っているが、明治維新で功績のあった「薩長土肥」4藩に由来する県が中心で、もっとも多いのは安倍晋三首相のおひざ元、山口県(長州)で175件。明治政府から「賊軍」とされた、奥羽越列藩同盟に由来する県は少ない。賊軍とされた旧会津藩の福島県会津若松市が掲げるのは「戊辰戦争150周年」だ。

「親思うこころにまさる親ごころ きょうの音ずれ 何ときくらん」

 山口県萩市。萩市立明倫小学校(児童数679人)では毎朝8時20分、子どもたちの元気な声が聞こえる。

 朗唱しているのは、幕末の思想家、吉田松陰が書き残した「ことば」だ。

 同校の椿義憲(つばきよしのり)校長(60)は言う。

「松陰先生の教えの根本は、人は誰でもよさがある。人に対しては真心をもって当たるよう説いている。その当たり前のことを、当たり前にできる子どもに育ってほしい」

 同校は江戸時代の長州藩藩校「明倫館」の流れをくむ。朗唱は1981年から始まった。子どもたちは入学すると1学期ごとに、一つのことばを朗唱していく。先のことばは、1年生が3学期に朗唱する。その意味は、「子が親を思う心よりも、子を思いやる親の気持ちのほうがはるかに深い」ということ。

 尊皇攘夷思想で幕末の志士たちに影響を与えた松陰。戦前、「忠君愛国」の象徴的な人物として「修身」の教科書に登場したこともあった。いまは愛国教育というよりは、地域の歴史を踏まえた取り組みとして、県内外からの視察が多い。人材育成の会社を中心に年200人近くが訪れる。

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