山本さんを大きく進化させたグーグル翻訳。しかしこのグーグル翻訳に対抗できる純国産の翻訳エンジンがあるのをご存じだろうか。開発したのは、国立研究開発法人「情報通信研究機構」(NICT)。パナソニックやソニー、NTT、KDDIなどから集まった研究者40人も開発に協力した。オールジャパン体制で作られたこの翻訳エンジンを使った音声翻訳アプリVoiceTra(ボイストラ)は、昨年6月から無料で公開されており、インストールすればすぐに使える。日本の自動翻訳技術の第一人者でこのプロジェクトを主導したNICTフェロー、隅田英一郎さんは、

「ボイストラはグーグルと互角。部分的には勝ってますよ」

 と自信たっぷりだ。ならば、と実際にグーグル翻訳と「対決」させてみた。

 まずは「日本では少子高齢化が問題です。」というシンプルな文章から。グーグル翻訳は「Thedeclining birthrate and aging population is a problem in Japan.」と訳したのに対し、ボイストラは「In Japan, declining birthrate and aging is a problem.」ということでこれは引き分け。次に試したのは、相談ごとや話したいことがある時に使う「今ちょっといいですか?」という主語が曖昧な日本語独特の言い回しだ。グーグル翻訳は「Are you OK right now?」とかなりトンチンカンだったが、ボイストラは「May I have a moment?」とうまく意図を汲んでくれた。

 最後は、旅行中によくあるシチュエーションで「トイレが流れません。」。ボイストラは「The toilet doesn’t flush.」と正確に訳し、「流れない」をdoesn’t flowと訳したグーグル翻訳に競り勝った。

 なるほど、確かに使える。NICTでは総務省と組んで昨年9月から「翻訳バンク」という取り組みを始めている。ネット上にはない様々な専門分野の対訳データを企業から集めて、翻訳精度のさらなる向上を目指す。

「将来的には同時通訳もこなせるようになるでしょう。自動翻訳エンジンはすでに日本人の平均的な英語レベルを超えていますし、今後ますますかなわなくなるのは確実です」

 隅田さんはそう断言する。(編集部・石臥薫子、高橋有紀)

AERA 2018年3月5日号より抜粋