カタルーニャ州議会議事堂。元々は中央政府軍の要塞の武器庫だった建物だけに、カタルーニャ住民にとっては、抵抗の象徴とも言える(撮影/田澤耕)
カタルーニャ州議会議事堂。元々は中央政府軍の要塞の武器庫だった建物だけに、カタルーニャ住民にとっては、抵抗の象徴とも言える(撮影/田澤耕)
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カタルーニャ自治州(AERA 2018年2月26日号より)
カタルーニャ自治州(AERA 2018年2月26日号より)
カタルーニャ州の独立をめぐる最近の動き(AERA 2018年2月26日号より)
カタルーニャ州の独立をめぐる最近の動き(AERA 2018年2月26日号より)

 カタルーニャ独立の是非を問う住民投票が実施された昨年10月、中央政府は、投票所の封鎖を命じて選挙を妨害、反対デモに対する鎮圧で住民800人以上の負傷者が出た。また、住民投票の結果を受け、プッチダモン州首相(当時)が独立宣言をすると、国会は自治権停止を承認し、中央政府は州首相らを更迭、州議会を解散させた。

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 こうしたスペイン政府の対応ぶりは、同じく国内に独立問題を抱える英国政府の対応ぶりとよく比較される。

 英国ではスコットランドが独立の是非を問う住民投票を14年に実施したが、英国政府は事前に実施を認めたうえで、その結果を尊重する姿勢まで見せた。結局、賛成45%、反対55%で独立は否決された。

「もし、英国政府とスペイン政府の対応が逆だったら、スコットランドは独立に賛成し、カタルーニャは独立に反対する結果となっていただろう」

 中央政府の対応で結果が異なることを指摘するような分析が、あちこちで聞かれる。

 もちろん、英国政府の「民主的な対応」がスコットランドの住民投票を独立反対に導いたというほど、簡単な問題ではない。

 英国政治に詳しい同志社大学の力久昌幸教授の分析が分かりやすい。

「スコットランドの住民投票の実施が決まった段階で、独立賛成派は3割超だった。そこで当時のキャメロン英首相は、今のうちに実施すれば、SNP(スコットランド国民党)の掲げる独立論を封印し、スコットランドを英国にとどめられると、賭けを打った。それがスコットランド住民投票ではうまくいったが、その後のEU離脱をめぐる英国全体の国民投票では裏目に出た。ギャンブルなんです」

 それでもキャメロン政権(当時)は、独立が否決されてもなお、スコットランドに財政権の拡大を認めるなど、自治権でさらなる優遇措置を講じた。その一方、SNPは昨年6月の総選挙で議席を大幅に減らした。スコットランドの独立運動は今、「かつてほどの勢いはない」(力久教授)という。

 独立を阻止したいなら、逆に相手側の言い分も聞きながら、自治権の枠内で最大限に優遇する──そんな英国政府のやり方は、カタルーニャの問題を解決する上でお手本になる。実際にスペインで経済的に最も豊かな地域の一つであるカタルーニャは、中央政府へ納める税が「生産性の低い地域で浪費され、自州への政策に還元されない」(カタルーニャを30年以上にわたって研究し続けてきた法政大学の田澤教授)という不満を強く持っている。これについて交渉を拒否している中央政府が、税制自治権の拡大などの措置を協議するだけでも雰囲気は変わる可能性がある。

 田澤教授が、シウタデリャ公園に来ていた60歳前後の夫婦から聞いた言葉が象徴的だった。長期化する独立運動に疲れがないかとの質問への回答だ。

「確かに長い。そういう感じ(疲れ)も少しあるかも」

 妻はそう言ったが、それでも運動はなくならないと、夫が言葉を継いだ。

「作用と反作用みたいなもので、踏みつける力がある限り、反発する力も消えないさ」

(編集部・山本大輔)

AERA 2018年2月26日号

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