グーグル社が引き抜いたカリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授グループが開発した「超伝導量子ビット素子」。彼らは近く、もっと強力な素子を発表するという(撮影/Michael Fang)
グーグル社が引き抜いたカリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョン・マルティニス教授グループが開発した「超伝導量子ビット素子」。彼らは近く、もっと強力な素子を発表するという(撮影/Michael Fang)
NTT、国立情報学研究所、東京大学のチームが開発した「量子ニューラルネットワーク(QNN)」。複数のレーザー光パルスを光ファイバー中で絡ませ、「最適な組み合わせ解」を計算する仕組みだ(写真:NTT提供)
NTT、国立情報学研究所、東京大学のチームが開発した「量子ニューラルネットワーク(QNN)」。複数のレーザー光パルスを光ファイバー中で絡ませ、「最適な組み合わせ解」を計算する仕組みだ(写真:NTT提供)

「0と1」のビットを一つ一つ計算する従来のノイマン型コンピューターを超え、量子ビットで一挙に計算できるという量子コンピューター。ケタ違いの「チカラ」に業界のまなざしは熱い。一足遅れた日本勢は「正統派」か「独自路線」か……。

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 昨年12月、米シリコンバレーでグーグル社主催の「Q2B=ビジネスのための量子コンピューター」というコンファレンスが開かれた。量子コンピューターを提供しようというグーグルと研究者たち、「ビジネスチャンスはどこに」と鵜(う)の目鷹の目の企業人が集まった。素粒子論と量子計算理論の権威である米カリフォルニア工科大学のジョン・プレスキル教授は基調講演で、「50から100量子ビットあれば、量子コンピューターは今のコンピューターを凌駕する。世界を変えるほどではないが、もっと強力な技術のためのステップになる」と述べた。

 一方、日本では昨年11月、内閣府主導の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT(インパクト)」のひとつとして、NTT、国立情報学研究所、東京大学が開発している「量子ニューラルネットワーク(QNN)」のクラウド使用システムが発進したという発表があった。だが、これを聞いた専門家には、「あれは正統的な量子コンピューターではない」という疑問を抱いた人が少なくなかった。詳しくは後から紹介するが、「量子コンピューターの正確な定義はこれからの開発戦略に関わる」と主張する人がいる一方で、「性能がよければいい。名前にこだわるな」という論陣を張る人もいて、論争が続きそうだ。

「量子」は極微小世界の主人公である。ただ小さいだけではない。「重ね合わせ」という、複数の異なる状態が一挙に実現する不思議な状態になるのが注目されるカギである。

 それは有名な「シュレーディンガーのネコ」と同じだ。量子力学に従って確率的に放出される毒のために「生きているネコ」と「死んでいるネコ」が重なり合った状態だが、もちろんそれは実現の難しい極端な例だ。しかし、電子が持つ小磁石(スピン)の性質などに注目すれば、「重ね合わせ」の状態はミクロの世界で実現可能だ。それが正統的な「量子コンピューター」の基礎である。

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