「動かさない仮想通貨はネットと完全に切り離した『コールドウォレット』で管理すべきなのに、コインチェックはNEMに関してはネットに接続したままの『ホットウォレット』状態で管理していた。ハッキングしてくださいと言わんばかりです」

 皮肉にもコインチェックの大塚雄介取締役は自著でこう書いている。

「全体を100とすると、そのうちの数%しかオンライン上に置かず、それ以外はインターネットから物理的に切り離して、オフライン環境で厳重に保護してあります。ゴールドと同じように金庫にしまっておけば、少なくともネット上で攻撃を受けても盗まれる心配はありません」

 未登録ながら人気芸人を広告塔に派手なCM展開をしていたことも、利用者保護の観点からは疑問が残る。グループ会社が金融庁の登録を受けているフィスコデジタルアセットグループ代表取締役の田代昌之さんはこう言う。

「心証は良くないですね。本来ならシステムやガバナンスも段階的に全てうまく整備できて、登録が終わってからCMを打つのが筋でしょう。ただ今回の事件で、なかなか統合の話し合いが進まなかった業界2団体が危機感を覚えて、統合を検討して規制や管理についての自主ルール作りをしようという機運が出ています。雨降って地固まるになればいいのですが」

 しかし、コインチェック事件は仮想通貨相場に大きく影響した。昨年200万円を突破したビットコインは100万円を大きく割り込むほど急落、他の仮想通貨も続落した。特に、米国発のソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)のFacebook(FB)が1月30日、仮想通貨と、仮想通貨を利用した「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」と呼ばれる資金調達方法に関連する金融商品やサービスの広告の禁止を発表したことが拍車を掛けた。

「誤解を招いたり、欺瞞的な宣伝活動に頻繁に関連する」ことを理由としているが、目的は定かでない。これについて、一般社団法人日露仮想通貨協会理事の油屋康さんはこう分析する。

「FBの経営者が米国のどのグループに属しているかが重要ですね。米国のエスタブリッシュメント層は、ビットコイン以降、雨後の筍のように出てきた仮想通貨群を将来的にはクラッシュして統合するのが一つの目的だと思います。基軸通貨の発行権争いはいつの時代にもありますが、通貨の中の通貨たる米ドルに相当する仮想通貨を掌握したいのでしょう」

(編集部・大平誠、澤田晃宏)

AERA 2018年2月12日号より抜粋