15年度以降は立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の特任准教授も務める。社会起業家を目指す人材を育成する立場だが、「ソーシャルビジネス万能論」には否定的だ。
「特に貧困問題は社会構造に根差したもので、一つの民間プロジェクトで解決することはあり得ません。民間は行政の貧困対策の改善を促す役割を担う。それが、問題解決に向かう一番の近道だと考えています」
02年に成立したホームレス自立支援法も、17年4月に成立した改正住宅セーフティーネット法も、稲葉さんたち民間の支援活動が先行モデルとなって、法制化を後押しした。
23年間の支援活動。出会った人々との関係性の変化に励まされるという。
ホームレス経験者の仕事と居場所をつくる目的で、17年4月、東京都練馬区に「カフェ潮の路」を開店。オープン初日に、かつて路上生活をしていた87歳の男性がスーツ姿でやってきた。
「今度は自分が応援したい」
そんな気持ちがストレートに伝わった。稲葉さんの言葉に、実感がこもる。
「私たちはみんな、支え合って生きています」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2018年2月5日号