「審査員を不要にするのではありません。人の経験値や勘を数値化し、人に寄り添うような形にICTの使い方を変えたい」

 と、富士通の五輪関係事業を統括する藤原英則さんは言う。いま開発中の仕組みはこうだ。

 3Dレーザーセンサーを選手に向かって発光し、レーザーが跳ね返る時間で身体の位置を確認。関節の角度や身体の回転具合を把握し、これを競技の動きをデータベース化した“辞書”と照合することで、リアルタイムで高精度な判定が可能となる。

 実用化を目指すのは東京五輪。採用されれば疑惑の判定が減り、選手や観客の不満を減らせる。さらに狙うのは業界の活性化だ。

 藤原さんが体操の競技会を見に行った時のこと。観客はまばら、かつ体操関係者がほとんどだった。体操は「お家芸」でメダル取得数も多く、体育の授業でも習う身近なスポーツのはず。なぜ盛り上がりに欠けるのか。背景には「分かりにくさ」があると気がついた。

 例えば、選手が挑戦した技の名前や難度が画面上にリアルタイムに表示されれば、仮に失敗しても「難しい技に挑戦したからだ」と素人でも分かる。ここに、ビジネスのカギを見た。

「選手のドラマを一般の人にも伝えてあげれば、もっと面白くなる。そうなれば体操はマネタイズできる領域に変わる」

 景気が悪くなるとどうしてもスポンサー契約が減るなど、持続可能性に難があるのもスポーツ界。継続的にスポーツが発展する土壌をつくりたい、と藤原さんは意気込む。(編集部・市岡ひかり

AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋