遠隔コラボアプリ シスコシステムズ/遠方にいるコーチと動画や試合のデータを共有でき、戦術を立てるのに役立てられる。石川選手や張本智和選手が使用している(撮影/工藤隆太郎)
遠隔コラボアプリ シスコシステムズ/遠方にいるコーチと動画や試合のデータを共有でき、戦術を立てるのに役立てられる。石川選手や張本智和選手が使用している(撮影/工藤隆太郎)
体操採点の自動化 富士通/3Dセンシング技術を用い、選手の身体の動きをリアルタイムに把握。「技の辞書」と照合することで高精度の判定が可能(写真:富士通提供)
体操採点の自動化 富士通/3Dセンシング技術を用い、選手の身体の動きをリアルタイムに把握。「技の辞書」と照合することで高精度の判定が可能(写真:富士通提供)

「この間の練習で、気になることがあるんだけど……」

【写真】3Dセンシング技術を用いた体操採点の自動化の様子

 女子卓球の石川佳純選手のコーチでもある母の久美さんが、モニター上に映し出され、そう切り出した。久美さんの横に、石川選手の過去の練習動画が映し出される。

「この球、もっとサイドの厳しいところに打ってほしい」

 久美さんが画面上に線を引き、打つべきコースを指示する。すると石川選手も、

「そうだね。確かに甘いコースだったかも」

 と応じる。これは通信機器大手シスコシステムズが開発したアプリ「Cisco Spark」を活用した練習風景の一幕だ。同社は12月に石川選手や男子卓球の張本智和選手とアンバサダー契約を締結。先端技術で練習を支えている。このアプリを使えば、コーチと離れた場所にいても、一緒にプレーの動画を見て対策を立てられ、画面上には打ったボールのコースや速度も表示されるので、戦術にも生かせる。

 遠征のため一年の多くを海外で過ごすという石川選手は、

「いつでも相談できるのは嬉しい。大きな武器が増えた」

 と活用に期待を寄せる。

 同社の鈴木和洋専務はこう強調する。

「日本ではこれまでスポーツは根性論で語られることも多かった。ITの力で“戦い方改革”を進めてほしい」

 2年半後の東京五輪を見据え、スポーツとITの融合が今、急ピッチで進んでいる。そもそも日本では、欧米と比べて「スポーツ産業」が盛んではなく、市場は12年時点で5.5兆円。米国は60兆円とケタが違うのだ。そのため政府は、IT分野を中心にスポーツビジネスを活性化させ、25年までに市場を15.2兆円とする目標を掲げる。

 その牽引役として注目されるのが、富士通だ。体操競技採点の自動化という、世界的にも例がない技術開発に挑んでいる。

 まだ記憶に新しい12年のロンドン五輪男子団体の試技。内村航平選手のあん馬の着地技が「未成立」と判定され、一旦は4位に。だが日本からの物言いで審査が覆り、見事2位となった。体操の審査は、技の成立条件や出来栄えを目視で判定しているが、一方で技が猛スピードで繰り広げられるため、膝の角度や開き具合などわずかな差異を見極めなくてはならない。それにもかかわらず、順位が0.001ポイントの差で変動するなど、審査員の負担が大きかったのだ。

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