「ホーコン国王がノルウェーに来た時、議会を見て上流階級の人間しかいないことに気づいて言いました。『漁師や労働者、みなさんが嫌いな共産主義者の代表はどこにいるのですか』と。つまり、議会は国民の鏡であるべきで、いろんな人を代表しなければいけない。それが民主主義だろうと言ったのです」

 リサーチから脚本完成まで3年以上。ポッペは「ヒーローではなく、人間としての国王を描く」ため、当時の生存者や歴史学者たちだけでなく、現国王や王女たちにも話を聞き、プライベート写真を見せてもらって詳細を詰めていった。王が当時つけていた一般非公開の日記やメモを読むことも許されたため、台詞も「実際の国王の思いや言葉がそのまま反映できた」と言う。「私の存在すべてをノルウェーに捧げる」という台詞は、日記からの引用だ。

 王は国民のために仕える存在であることを実践し続けたホーコン国王は、「民主主義を心から信じていたと言えると思います」とポッペは話す。

「ホーコン国王は首長として非常に優れた人でした。いま世界を見渡しても国民のために立ち上がる人はなかなかいません。彼は家族までも犠牲にして国民のために立ち上がろうとした。それこそが、我々がリーダーに求めるものだと思います」

 では、極限の状況にあって人間が取るべき正しい道とは何だろうか。人間に備わった「善」を信じたくなる映画が「ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命」だ。ナチスドイツ支配下のポーランドで300人ものユダヤ人の命を救った夫婦の実話を映画化した。

 ワルシャワで動物園を営むアントニーナとヤン夫妻だが、ナチスドイツのポーランド侵攻によって園も経営困難に。一方、次々とゲットーに連行されていくユダヤ人たちを見かねた夫妻は、アントニーナに心を寄せるヒトラー直属の動物学者ヘックに、動物園をドイツ兵の食料を提供する養豚場にすることを提案。ゲットーから出る生ゴミを餌とすることで、ヤンはゴミを回収するたびにユダヤ人をトラックに乗せ、動物園の地下に匿う。

 匿っていることが知られたら全員が殺されるという状況で、なぜ夫妻は命の危険を顧みず人々を救うことができたのか。主演のジェシカ・チャステインは言う。

「夫妻が残した言葉によれば、それが『正しいこと、やるべきことだったから』です。ヤンさんは、『どんな悪い人々だったとしてもひどい扱いを受けているなら助けるのは当然だろう。それが人間であることだし、思いやりを持つことが当然だ』と言っています」

 だれもができることではない。だが、アントニーナは、権力を笠に夫のいない間を狙って関係を迫るヘックをうまくかわして、匿っているユダヤ人たちを守らなければならなかった。

「彼女は(ユダヤ人たちを守る)責任を感じていたからこそ、選択の余地がなかった。勇敢であるしかなかったんです。少しでも弱さを見せれば、きっとヘックに隠し事をしていると思われてしまうから。アントニーナは愛と思いやりを武器に闘いました」(チャステイン)
健康的な世界のために

 こうした映画のテーマは「今を生きる自分たちにも意味がある」とチャステインは言う。

 取材がちょうどハリウッドがセクハラ問題に揺れていた時期でもあり、チャステインはこう語った。

「(セクハラのある)現代も女性にとってすごく怖い時代。でも、自分の主義や思いに正しくあることが重要。それにかなった言葉を発信したり行動を取ったりするほうが、私は幸せでいられる。その結果、私と仕事をしたくないという人がいるならそれでいい。そのほうが夜眠る時に、すべての人にとってより健康的な世界になるためにやれることをやれたって思えるから」(文中敬称略)

(フリーランス記者・坂口さゆり、ライター・中村千晶)

AERA 2018年1月1-8日合併号