そこで、分身ロボットならば、人とロボットが協力し合って作業ができるのではと考えた。こうした操作方法は、初心者にもロボットを扱いやすい。

「自分が動くだけでロボットを操作できれば、ロボットに詳しくない人でも使いやすい。コントローラーを使ってロボットを操作する方法だと、訓練をした詳しい人しか操作ができません」

 と小川さん。たしかに、記者は初めて体験させてもらったが、センサーの装着はわずか数分。自分に合った動きができるように数分間静止して調整した後、頭や手足を動かすだけで、即座にロボットを動かすことができた。ロボットを操作しているというより、ただ動くだけでいい。

 今は研究中。実際に現場で使う予定はまだないと言うが、分身ロボットに小川さんは大きな可能性を感じているという。

「テクノロジーで人間の身体の能力を高める、『人間拡張』と言えます」(小川さん)

 人間拡張とは、機械やバーチャルリアリティー(VR)などの技術を使って、人間の能力を高めるという考え方だ。小川さんは、こうした考え方に影響を受け、今回のシステムを開発したという。実は人間拡張によって、人間の能力だけでなく、人間の心自体を変えていく可能性もあるのだという。

 人間拡張を研究する東京大学先端科学技術研究センター教授の稲見昌彦さんは説明する。

「お化粧をすると気持ちが変わったり、服装によって行動が変わったりすることってありますよね。身体の見え方が変わることで、心が変わることは日常生活で起きています。身体と心は切り離せません。心を設計するのは難しいのですが、身体の見え方や身体そのものを変えることで、心を変えるように働きかけられます」

 実際に「身体」が変わったらどうなるのか。稲見さんらは慶應義塾大学の研究チームと共同で、「4本腕になるロボットアーム」を開発して調べてみた。

背負ったバックパックから2本のロボットアームが伸び、まるで「阿修羅像」のように腕が4本あるようになる。この第3と第4の腕は、足の動きで自在にコントロールできる。こうした本来ないはずの第3と第4の腕ができると、心はどのように変化するのだろうか。稲見さんは続ける。

「自由に操作できる腕が増えると、それまでできなかったことが自在にできるようになります。それによって、神様のような『自在感』を感じるようになります」

(編集部・長倉克枝)

AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋