パク・ミンギュ/1968年、韓国・蔚山生まれ。作家。韓国で圧倒的な支持を集め、他の邦訳書に『カステラ』『亡き王女のためのパヴァーヌ』『ピンポン』がある(撮影/写真部・小原雄輝)
パク・ミンギュ/1968年、韓国・蔚山生まれ。作家。韓国で圧倒的な支持を集め、他の邦訳書に『カステラ』『亡き王女のためのパヴァーヌ』『ピンポン』がある(撮影/写真部・小原雄輝)

 韓国で20万部超のベストセラー小説『三美(サンミ)スーパースターズ 最後のファンクラブ』。野球というスポーツを通して、韓国社会に人間にとって大切なことを問い続ける。著者であるパク・ミンギュさんがAERAのインタビューに答えた。

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 誰にとっても記憶に刻まれる年というのはあるものだ。パク・ミンギュさんのデビュー作『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』の物語が始まる年であり、韓国人にとって忘れられない年といえば1982年。韓国でプロ野球が始まった瞬間である。

「68年生まれの私は、黎明期のプロ野球に熱中した世代です。みんな野球が大好きだったし、実際にプレーもしていました。そして私は、いつか野球の小説を書いてみたいと思っていたんです」

 ミンギュさんが選んだのは三美スーパースターズ。かつて実在したプロ球団である。ぶっちぎりで弱いチームとして知られていた。

「当時勤めていた職場の近くに大きな公園がありました。IMF(国際通貨基金)危機の時期で、リストラされたことを家族に言えず、一日中そこで過ごす人がたくさんいたんですね。その光景を見て、弱すぎる三美をモチーフに小説を書いて彼らを励ましたいと思うようになったんです」

 作中、最弱チームのファンクラブ会員だった少年2人は、やがて大人になり、まさにIMF危機を、そして自らの人生の困難を迎えることになる。それぞれの屈託の中で疎遠になっていた友人同士を再び結び付けたのは、やっぱり野球だった。

「私の中にはずっと、韓国はどうしてこんなに競争ばかりの社会になったのか?という疑問があります。野球は戦うスポーツではあるけれど、両チームが協力し合わなければゲームが成立しません。そのことをよく思い出してほしいのです」

 日本では一部、嫌韓感情が渦巻いていることに話が及ぶと、ミンギュさんは冷静にこう語って締めくくった。

「日本には、いまある敵が必要なんだな、と受け取っています。私が子どもの時も“北”が敵だと洗脳されましたが、その対象が変わっているだけでしょう。大切なのは、若い世代に憎悪を再生産させないこと。韓国と日本は2600年くらい交流の歴史があると言われますが、対立していたのは実は100年くらいなんですね。隣国同士のこうした友好関係は、世界史的に見てもめずらしいんじゃないでしょうか。そのことを忘れず、競争ではなく、協力し合うことでこそ良い結果が生まれる、ということを実践していきたいですね」

 弱すぎるチームと同居しながら、敗者のいない社会に向けた想像力を鍛えてくれる小説が、ここにある。(ライター・北條一浩)

AERA 2017年12月25日号