「ハゲなんて気にするな」「ハゲをネタに笑いを取ればいい」「下手に隠さずいっそスキンヘッドにすればいい」。薄毛男性が、どこかポジティブさを強いられるのも、そんな男らしさをめぐる背景がある。この「ポジティブハゲ(ポジハゲ)」を強いられる状況に違和感を持ったのが、先に登場した松本さんだ。

「ポジハゲになれる人は、結局髪の毛以外に自己肯定できるものがある。必要なのは髪ではなく、自信なんです」

10年以上薄毛に悩み、ヘッドスパにも通ったことがある。風が吹く場所は極力避けて通る努力もした。でも……。メーカーに勤務しながら通った神戸大学大学院在学中、焼き肉屋で酔った勢いで仲間に打ち明けた。

「もう増やすのも隠すのも疲れた」

 なぜハゲが嫌なのか。最初は自分でも理解できずにいたが、突き詰めて考えるうち「恥ずかしいからだ」と気づいた。薄毛が恥ずかしくない社会をつくれないか。たどり着いたのが、隠すでもなく、増やすでもなく、薄毛を“魅せる”ことだった。

 2016年9月、松本さんが立ち上げた会社「カルヴォ」では、カウンセリングの上、薄毛の度合いに応じた似合う短髪の髪形や、服装などをアドバイスしている。スタジオでの「魅せフォト」撮影も付いて1万9800円。メーカー勤務時代、メガネの形やネクタイの色、ヒゲの有無などファッションを変えることで、どうすれば初対面の相手の視線が頭部に向かなくなるのか、ひそかに実験を繰り返して得たノウハウも生かした。

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